では、ここで、『安倍晋三 回顧録』(安倍晋三著、聞き手:橋本五郎、聞き手・構成:尾山宏 監修:北村滋)を紐解いてみよう。財務省に対する恨み節はいろいろ出てくるが、ひとつだけ紹介する。
〈この時(*筆者注/増税政策を拒否した時)、財務官僚は、麻生さんによる説得という手段に加えて、谷垣禎一幹事長を担いで安倍政権批判を展開し、私を引きずり下ろそうと画策したのです。(略)彼らは省益のためなら政権を倒すことも辞さない〉(同書「安倍政権を倒そうとした財務省との暗闘」より)。
しかし、それでも最終的に安倍政権は逆にやむなく消費増税までするはめになった(2014年4月1日に5%から8%、2019年10月1日に8%から10%)。それほどまでに財務省のプレッシャーは強いということか。
元財務官僚の「証言」
先日、経済学者の高橋洋一氏(嘉悦大学教授)が国民民主党代表・玉木雄一郎議員の地元香川県に赴いて講演し、その後ふたりで行った対談を収録したYouTube動画(YouTube高橋洋一チャンネル950回「香川で玉木さんと財務省の話とうどんを」)がある。
高橋・玉木の両氏はともに大蔵省に入省し、財務省を退官後にそれぞれの道に進んだ。財務省の空気をぞんぶんに吸ってきたふたりである。そして、彼らは「ザイム真理教」の“布教活動”は確かにあると言っている。玉木氏は「財務省は頭もいいけど、人もいいんですよ」と持ち上げておいて、「メディアも政治家も、財務省の講義を30分から1時間受けるとすぐ転ぶ」(大意)と観客を笑わせているが、本当だとしたら笑いごとではない。
思い当たる節はある。安倍政権下、蓮舫議員は「財政黒字を憲法に入れたい」と財務省が泣いて喜ぶような主旨の発言をしているし(2017年5月2日付日本経済新聞)、枝野幸男・立憲民主党代表(当時)は「だから、本来効果が上がるはずの金融緩和をとことんアクセルを踏み、財政出動にとことんアクセルを踏んでも、個人消費や実質賃金という、国民生活をよりよくするという経済政策の本来の目的にはつながらないところで止まっているのではないでしょうか」と大演説をした(2018年7月20日衆院本会議)。