「夫の出世は夫次第。子どもの受験は母親次第」
東京は、昔から女性の大学進学率が高かったが、一方で、女性が出産後に働き続けられる環境が整うようになったのは最近のことだ。
「東京はそれなりに学歴や学力がある専業主婦が多かったです。その層とSAPIXはマッチしたんでしょうね」(中小企業の塾経営者)
1994年に放映された『スイートホーム』(TBS系)という小学校受験をテーマにしたドラマがある。主演は山口智子だ。大手メーカーの社宅が舞台で、夫はサラリーマンで、妻は全員が専業主婦だ。子どもの受験に没頭する妻たちを見て、夫たちが「彼女たちは受験に参戦するために、結婚して出産したのか」というふうに呆れるシーンがある。
夫たちは子どもの小学校受験よりも、自分のキャリアの方が大事だ。しかし、彼らの妻である専業主婦たちにとっては「子どもの受験こそ自己実現」であったのだ。
夫のキャリアは夫本人の能力や努力次第だが、小学校受験や中学受験は母親の能力や努力で差がつく。そこにやり甲斐を見いだす母親も多かったわけだ。
そうなると、「子どもを開成に入れるためならどんな犠牲も厭わない」という母親がいても不思議ではない。
「子どもの受験が自己実現」という高学歴な専業主婦層とSAPIXはマッチした。なぜなら、SAPIXについていければ、難関校に合格できるのだから。子どもが一人で宿題ができないなら、横について教える。それはある程度、学力がある母親でないとそれはできない。彼女たちの献身によって、SAPIXの合格実績はさらに増え、ブランド力を高めた──SAPIX隆盛の背景には、そうした経緯があったことが想像できるだろう。