“やったつもり”の行動にすら倦んでいる
環境省の調査によると、日本だけで年間約50万t以上の衣類が廃棄され、世界的に目を向けると約9000万tもの廃棄量になっている。分解されないまま海洋を汚染するパッケージ用プラスチックゴミの発生量は全世界で毎年800万tにおよび、日本はアメリカに次いで世界2番目に多い。野生生物は過去60年で約40%も減少し、森林減少のペースは1分間で東京ドーム約2個分と試算されるなど、その規模は危機的な大きさだ。
それに対峙するための取り組みが、マイバッグ、紙ストローであることに、どれほどの意味があるのかはたしかに疑問符がつく。そのうえ“環境によいことをした気分”に惑わされることで、いまよりも状況を悪化させていく。
「肌触りのよいコットンの洋服を大量生産するために、どれだけのインドの人々が安い労働力として過酷な労働条件で綿花栽培をしているか。東南アジアのパーム油やブラジルの牛肉のために、どれだけの森林が伐採されているのか。
先進国における“便利で豊かな生活”“安くて質のいい商品の提供”のために、途上国では低賃金で労働力が搾取され、手つかずの自然環境が破壊されていることにも想像を巡らせる人があまりにも少ないことが問題です」
最近は、社会にあふれるエシカル(人や社会、地球環境に配慮した倫理的に正しい消費行動)な情報に、“SDGs疲れ”を感じる人も増えている。実際、昨年オズマピーアールとオルタナ総研が実施したSDGsに対する生活者意識調査によれば、企業が発信するSDGsに関する情報に対して「企業が発信する情報が多く、飽きや疲れを感じる」と答えた人は6割強におよんだ。私たちはもはや、“やったつもり”の行動にすら、倦んでいるといえるだろう。
(第2回につづく)
【プロフィール】
斎藤幸平/東京大学大学院准教授。1987年生まれ。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。専門は経済思想、社会思想。著書に『ゼロからの「資本論」』『人新世の「資本論」』など。
取材・文/戸田梨恵
※女性セブン2024年2月22日号