地球規模で大きなうねりとなっているSDGs(持続可能な開発目標)。しかしその行動は、果たして本当に世界のためになっているのだろうか。東京大学大学院総合文化研究科・教養学部准教授で経済思想家の斎藤幸平さんは、「本来であれば、労働者を安く使い、環境を破壊するような大量生産・大量消費型のビジネスモデルから企業が離れるべきなのに、利益追求の資本主義システムにSDGsが組み込まれてしまっている」と断じる。では、私たちにできることはないのだろうか。【全3回の第3回。第1回から読む】
危機的な地球環境や経済格差を前に、私たちが次世代にできることは何か。斎藤さんがキーワードとして掲げるのは“脱成長”だ。
「再生可能エネルギーの利用やリサイクル技術のように環境保護を目指した技術革新も日進月歩ですが、それだけでは到底足りません。行きすぎた資本主義にブレーキをかけるには、成長だけの追求をやめて過剰な生産や消費を減らすことです。
不便な生活に思えるかもしれませんが、スマホを手放すとか、家電を手放すといったレベルの話ではありません。既存の技術は維持して利便性のある生活をしつつも、ここ数十年で膨張した過剰なモノやサービスを考え直してみることです」(斎藤さん・以下同)
例として挙げるのは、24時間営業のコンビニエンスストアやファストファッション、ファストフード、ウーバーイーツやアマゾンなど「安い・早い」を代名詞としたサービスの過剰さだ。
「ウーバーイーツで配達の体験をしたことがあります。やってみるとわかるのですが、家や職場から歩いて数分もかからない飲食店にオーダーしている人がとても多い。スーパーだって全部の店が毎日開いている必要がどれだけあるでしょうか。
こうしたサービスや、ブルシット・ジョブをなくして、医療や介護、家事労働のように社会に欠かせない仕事の価値を見直し、賃金を上げて働き方を改革する。紙幣に対する評価軸を変化させるときにきています。過剰さを手放すことで、長時間労働やジェンダーバランス、介護や育児をしながらの労働などいくつもの問題が整理できるはずです」
脱成長は、人手不足のいまこそ必要な発想だ。世界の人口は80億人を突破したが、日本は少子高齢化による人口減少が止まらない。このままいけば2040年には現役世代が8割に減り、働き手が1100万人不足する“8がけ社会”が訪れることが予見されている。日本経済や社会が危機的状況に陥ると警鐘を鳴らす向きもあり、作業の効率化やAIの導入などさまざまな対策が進められている。
しかし斎藤さんは「効率さえ上げれば充実したサービスを提供できるという考えは捨てるべき」と断じる。
「イノベーションを起こすことは大事ですが、技術により生産性と効率を上げても、モノの値段が下がって消費が増大すれば、効率化の効果は失われます。また、新しいテクノロジーによって利益が生まれても、企業はさらなる効率を求めて投資するので、労働者はますます働かされるだけ。それよりも不要な仕事をなくして無駄を省くべき。脱成長と資本主義を両立させるのは不可能です」