高度経済成長期に戦後の日本を経済大国に押し上げ、「一億総中流社会」を作り上げたのは、アメリカ型の資本主義だ。経済が発展することで便利で豊かな生活を手に入れられると日本人は信じ、実際に先進国の仲間入りも果たしたのではないかと疑問に思うが、それは副次的なものでしかないという。
「確かに資本主義が便利で魅力的なものを作ってくれるという側面はあります。しかしそれはモノを売るために作っているだけで、私たちを幸せにするためではありません。むしろ金儲けに必要となれば、人の生活に必須の公的サービスだって容赦なく削られていきます。
コロナ禍を振り返ってみても、浮き彫りになったのは、医療従事者や介護者など人が生きていくために欠かせないエッセンシャルワーカーの人材不足でした。彼らの給料は安くて労働環境も悪い一方、広告業や投資銀行などのブルシット・ジョブ(意味のない仕事)の給料は高い。資本主義社会では、女性の家事労働も無償で搾取されています」
人類が地球に重大な影響を与える「人新世の時代」
46億年前から続く地球の歴史の中で、人類が地球の地質や生態系に重大な影響を与えている時代を「人新世(ひとしんせい)」と区分する動きがある。地質年代では約1万1700年前から現代までが「完新世」とされてきたが、オゾン層の破壊を研究したノーベル化学賞受賞者のパウル・クルッツェン博士が、「我々は人新世の中にいるのではないか」と発言したことで注目されるようになった。
斎藤さんは、すでに地球の歴史は「完新世」を終えて「人新世の時代」に入っていると分析する。
「いまや地球上に手つかずの自然は残っておらず、人工的に作られたもので覆われていて、どこに行っても人間の痕跡が残る時代です。海はプラスチックで汚染され、大気には二酸化炭素が増えています。気候変動による異常気象や食料危機、広がり続ける格差。これらは遠い国で起きている話に思えるかもしれませんが、異常気象も労働力の搾取も、すでに日本で起きていることです。
無限の利益追求を優先すれば、事態はもっと悪化するでしょう。アクセル全開の資本主義にブレーキをかけなければいけない転換点にきています」