1月の羽田空港航空機衝突事故は、航空業界の安全神話を信じていた人々に、大きな衝撃を与えた。事故原因については、様々な角度から検証されているが、航空管制能力のオーバーキャパシティがその1つに挙げられている。航空業界は「多くの人命を預かる仕事」であるだけに、人員削減や省力化が難しい。そのため、採算がとれない路線や地方空港は、切り捨てられやすい傾向にある。その結果、何が起こるのか──。人口減少時代の社会経済問題に詳しい作家・ジャーナリストの河合雅司氏がレポートする。【前後編の後編。前編を読む】
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航空管制官も2010年から減少に転じ、2005年には4985人だった航空管制官等定員数は、2023年は4134人だ。取扱機数はコロナ禍期を例外として増えており、今後はさらなる増加が予測される。
このため1人あたりの業務負担量も拡大する見通しで、航空管制処理能力のオーバーキャパシティがかねてより懸念されてきた。今年1月に起きた羽田空港の航空機衝突事故については、「1分間に1.5本の航空機が離着陸するとされる羽田空港の過密さが遠因」との見方もある。
グランドハンドリング(グラハン)従業員、保安検査員、そして航空管制官……。これら空港業務のどれか1つでもうまく機能しなくなったならば、飛行機を安定的に飛ばすことはできない。
いま航空業界はパイロット、整備士、空港業務従業員のすべてが不足する「三重苦」にある。
綱渡りで航空需要の増加に対応せざるを得ない状況に対し、各企業はデジタル化や機械による省力化などを推進しているが、人が担わざるを得ない業務は少なくない。政府も資格要件の緩和や試験の簡素化に取り組んでいるが、「多くの人命を預かる仕事」であることを考えれば限度がある。
このため国交省は新たな有識者検討会を立ち上げて解決策の検討に乗り出したが、切り札となるような根本的打開策を見出すことは容易ではない。