JASMの株主構成を見ると約86.5%がTSMC
1980年代から90年代にかけて世界をリードしていた日本の半導体産業だが、台湾、韓国にその地位を奪われて久しい。もちろん企業側に戦略的な失敗があったのは否めない。だが、それ以上に、米国による抑圧政策、その結果としての円高、バブル崩壊を経て日本の金融機関が弱体化したことなどの影響は大きい。半導体製造には、蓄積された技術とともに、巨額な設備投資資金が必要不可欠だが、日本企業にとって、それらを国際水準にまで高めることは簡単ではない。
たとえば、TSMCの財務内容をみると、2023年12月末における総資産は1799億ドル(26兆9850億円)。自己資本は1133億ドル(16兆9950億円)あり、内部留保も厚い。2023年12月期の売上高は692億2980万ドル(10兆3947億円)、純利益は268億7900万ドル(4兆319億円)と売上規模が大きい上に高収益だ。
TSMCは熊本県に半導体受託製造(自動車制御などで使われるロジック半導体、22~28nm、12~16nmプロセス、12インチウエハ、毎月5.5万チップの生産を予定)を目的とした子会社(JASM)を設立、日本政府が補助金として4760億円を拠出する中で、総額86億ドル(1兆2900億円)の投資を実行、すでに工事は完了しており、2024年末には正式に量産体制に入る見通しだ(2月26日付、芯智訊)。
さらに、熊本県内で第二工場の建設が計画されており、日本政府が約7300億円を助成する方針を固めている(2月22日付、共同通信)。第二工場を含めた設備投資額は200億米ドル(3兆円)を超える見込みで確かに巨額のプロジェクトだが、JASMの株主構成をみると、ソニーセミコンダクタソリューションズ、デンソー、トヨタ自動車なども出資するとはいえ、TSMCが約86.5%を占めている(2月7日付、日経クロステック/日経エレクトロニクス)。
日本にとって、雇用が生まれる上に、周辺産業の発展が促され、共同出資する企業に対しては出資比率に応じて投資収益が得られる。日本のユーザーにとっては半導体不足の解消、半導体供給体制の充実に繋がる。さらに、米国の対中デカップリング、デリスキング戦略を進める上では効果があり、日米関係の強化にはつながるだろう。しかし、プロジェクト全体で得られる果実の多くはTSMCの懐に入ることになり、日本の半導体産業を直接強化する効果は限りなく小さい。
AIに関しては、半導体以上に状況は厳しいのではないか。例えば、2022年におけるAI分野の学術論文数(出所はNSF)をみると、1位は中国で4万2524件、2位はインドで2万2557件、以下米国、イギリスと続き、日本は5位で3858件に過ぎない。AI革命の発端となったChatGPTを開発したのはOpenAI社であるが、そのCEOであるサム・アルトマン氏のように技術者・研究者として突出しているのはもちろん、驚異的なスピードで事業化を推し進めることのできる熱意と行動力を持った人物を日本国内で育成することができるだろうか。