中川淳一郎のビールと仕事がある幸せ

【実録】平成初期の社畜道、今思えば“不適切”な働き方も案外楽しめた 何かにつけて「飲みに行くぞ!」「社員旅行だ!」

約20年前、会社員時代の筆者(左から2人目)

約20年前、会社員時代の筆者(左から2人目)

 ドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)は、1986年から2024年にタイムスリップしてきた中学の体育教師・小川市郎(阿部サダヲ)が主人公で、両時代のコンプライアンス意識の違いを描き出して話題になっている。中高年世代にとっては「あった、あった」、若者世代にとっては「考えられない」と思うような内容も少なくないだろう。ドラマで描かれているのは昭和末期のことだが、平成初期も似たようなものだったというのは、ネットニュース編集者の中川淳一郎氏(1973年生まれ)だ。中川氏が当時の働き方を振り返る。【前後編の後編。前編から読む

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 前編記事では「昭和末期」の学校やサラリーマンの状況を振り返りましたが、続いては「平成初期」の私自身の経験になります。私は平成9年(1997年)に大手広告会社に入社したのですが、今のオフィスと比べるとまったく風景が異なります。

 何しろ、デスクでタバコを吸えたのです。だから、タバコの煙が嫌いな人はいわゆる「島」と呼ばれる部署の机の並びで端っこを希望し、机に設置されたパーテーションに扇風機をつけてタバコの煙が来ないようにしていました。とはいえ、そのように明確にタバコに反旗を翻す人は少数派で、多くの人は「タバコがないと仕事の効率が落ちるんでしょ?」とデスクでの喫煙を全面的に認めていたのです。さらに、各デスクには灰皿が設置されており、早朝にやってくる掃除のおばちゃんが吸い殻を回収。キレイになった灰皿には、その日も多数の吸い殻が置かれることになるのでした。

 会議室でも机の上には灰皿が置いてあり、6人ほどが参加する会議であれば、1時間で50本のタバコが消費されていた。常に会議は煙幕に覆われていたのです。タバコが一箱200円台だった時代です。「ゴールデンバット」は一箱90円でした。

 17時30分が定時だったのですが、17時15分になると50代の管理職部長が「ハァ~、喉乾いたねぇ」と言う。それを私のような最下っ端が察して「部長、何か買ってきましょうか?」と言うと「頼む」と言われて5000円札を渡される。

 それを持って近くのスーパーに行って、冷えた缶ビール1ケース(24本)を買ってくるわけです。私が冷蔵庫にすべてを入れる。17時30分を過ぎると次々と部署の人間がそのビールを飲み始め、部長がカネを払っていることを知っている人は「部長、ありがとうございます!」と1000円札を渡してそのビールを飲む権利を得ることができるようになる。

 さらに、この部長は18時を過ぎた頃に仕事が一段落していそうな社員に声をかけて「飲み行く?」と言い、「行きます!」と言った人に「じゃあ、他にも行けそうな人捜しといて。女のコもね」なんてを言う。かくして6人ほどの飲み会が18時30分から開始されるのが恒例でした。

 当時は「出先表」と呼ばれるホワイトボードが社員の居場所を把握するうえでは重要で重要な役割を果たしていましたが、何しろ書かれてある場所が適当過ぎる。得意先やら発注先の社名を書くのはまだしも「銀座→渋谷→赤坂→NR」なんて書かれている。地名だけ書いて、最後は「NR(Not Returning=直帰)」で終了。一体何の仕事をしているのやら……。豪快な人は「外→NR」なんて書いている。

次のページ:社員旅行で恒例だった「10円玉ゲーム」
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