社員旅行で恒例だった「10円玉ゲーム」
社員旅行も恒例行事で、私も退職するまでに4回経験しました。1回目は総勢70人ほどで熱海の温泉旅行。次いで、部署の派遣社員も含めて総勢12人で熱海で漁船に乗って釣りをするという旅行。夜の飲み会では「10円玉ゲーム」に興じます。これは、卑猥な質問も含め、何らかの質問に対して全員が一斉に10円玉を出し、表と裏で「はい」「いいえ」を答えるゲームでした。一人だけ表か裏だった場合は、その人物は名乗り出てその質問に回答しなくてはならない。
その時「嫌いな社員がいる」という質問がありましたが、私は唯一「はい」と答えた。当時、私のことを名指しで嫌いだと言っていた別部署の先輩社員がいたのでその人を念頭に置いてのこと。さすがにこの質問には誰もが「いいえ」と答え、正直すぎる私だけが「はい」と答え名前を言うことになった。実名を挙げ、その先輩がいかに非道な人間であるかを滔々と演説し、その場が凍り付きました……。
3回目の旅行は、同じ部署の1つ年上の先輩が異動することになり、「異動カウントダウン旅行」と題し、なんと部署の全員と他社から出向してきた男女と一緒にグアムに行ってしまった! 金曜日の午後、全員で半休を取り、成田エキスプレスで酒を飲みながらグアムに向かったのです。
そして最後は私の退社旅行。2001年3月末の話ですが、金曜日から日曜日までの2泊3日、鬼怒川温泉に行き、盛大に送り出してもらえたのです。ここでも10円玉ゲームをやりました。
こうして振り返ると今の若者には耐えられないような、すさまじい社畜道が昭和・平成にはあったように思えるのですが、私は案外楽しめました。とはいっても時代は変わるので「あの時代よ復活してくれ!」なんてことは思いませんが。
(了。前編「昭和末期」編から読む)
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など多数。最新刊は『日本をダサくした「空気」』(徳間書店)。