供給側の暴走を強権を用いて止めさせるしかない
海外のエコノミスト、市場関係者の多くは当局に対して、大規模な財政出動や大胆な金利引き下げ、量的緩和などを期待しているようだが、中国の不動産市場は自由主義諸国の市場とは決定的に異なる部分がある。中国の実情を考えれば、そうしたやり方はうまくいかないのではなかろうか。
そもそも、中国では不動産の所有権はすべて国家に帰属する(土地公有制の原則)。地方政府は国家を代表してその使用権(住宅についてはほとんどが70年、あるいは50年などの長期の使用権)を不動産会社に売却し、不動産会社はその土地の上に集合住宅を建設し、それを売却する。
土地公有制の原則によって地方政府は成立当初から巨額の資産を所有しているが、その使用権の切り売りによってインフラ整備を急速に進めることができるなど、財政上のメリットは大きい。しかし、不動産市場を自由化するにあたって、経済主体に対して強い監督管理権を有する地方政府が土地の売却権を持つことによる弊害も大きい。地方政府が財源拡大のため、不動産価格のつり上げを行うことなどを中央が完全に抑制することは難しく、それが利害関係の一致する不動産会社、特に中央政府による監督管理の行き届きにくい民営不動産の暴走を許す要因にもなっている。
需要サイドにおいては、同じ品質の住宅でも一定の条件を満たす消費者は、極端に安い価格(ほとんどが市場価格の半値以下、極端な場合は数分の1)で買うことのできる保障性住宅、回遷房、福利房(国有企業などが福利厚生の一環として従業員に提供する物件)などが存在する。土地の出し手である地方政府においては、残念ながら役人による違法行為が散見される。管轄地区で建設する優良物件について、役人が家族名義を使い、抽選を通さず“買う権利”を買い占め、開発業者の担当者と共謀し、その権利を高いプレミアを付けた上で少しでも優良な物件を買おうとする裕福な消費者に譲渡するといったようなことが行われている。
1998年から始まった中国の住宅改革であるが、供給サイドでも、需要サイドでも、自由市場への転換を阻害する障害がたくさんあったことで、2000年代後半には早くもバブルが発生、中央がそのバブルを一生懸命抑えようとしたが地方政府の抵抗にあって抑えきれず、最終的には、ストックのある程度の増加、価格の上昇に加え、供給側の暴走を国家が強権を用いて止めさせたことで、初めて抑えることができたのである。
市場の失敗は社会主義的なやり方で解決される。中央の指導方針に従わず、中央の監督管理の行き届かない海外で起債して無謀にレバレッジを拡大させた不動産企業まで当局は救おうとはしないだろう。不良債権の大量発生が懸念されるが、国内部分に限れば、債権、債務ともに大部分が国有セクターに寄せられることで最終的には上手く処理されるだろう。もともと“タダ”の土地から始まった錬金術だ。その点でも、自由経済における不良債権の発生とは経済に与えるインパクトが異なる。
とはいえ、長らく成長の牽引役であった不動産セクターが安定成長に管理コントロールされる以上、中国が高成長を維持することは、これまで以上に難しくなりそうだ。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。