2021年に仕込んでいた「年金減額ルール」
原因は年金だけを狙い撃ちにした「ルール改定」にある。
その一つがマクロ経済スライド。これは「年金制度を維持するため」という理由で、物価が上昇した時は、年金の引き上げ幅を物価上昇率より最大で0.9%低く抑える年金減額の仕組みだ。
高齢化で年金財源が逼迫していることを理由に、毎年少しずつ年金を削っていくのである。額面上は増えているように見える「実質減額」であることで、国民の目を誤魔化すことにもつながる。
小泉内閣時代の2004年の年金改正で導入されたが、デフレ(物価下落)の期間は発動されず、物価上昇に転じた安倍内閣時代の2015年に初めて実施。以来、4回実施され、これまでに合わせて年金が6.3%実質減額された。
4月の大幅な年金実質減額は、このマクロ経済スライドに加えて、新たな「年金減額ルール」が発動された。
2021年に施行されたこの新ルール。先に述べたように年金改定は「物価上昇率」を基準にしていたが、新ルールでは物価と賃金がどちらも上昇した場合、「伸び率が小さいほう」を基準にするよう不利な改定がなされた。
その「低い基準」からさらにマクロ経済スライドを発動してダブルで年金を減額する仕組みだ。昨年までは前年の物価上昇率がマイナスだったため、新ルールは今年4月に初めて実施される(別掲右図参照)。
岸田政権の大号令で物価上昇・賃上げが推し進められたが、それが実現した際に「年金が減額できる」よう“仕込まれていた”新ルールと言える。
その結果、厚生年金が本来の引き上げ額から年間約1万4000円も減らされるのだ。
岸田首相は賃上げに浮かれているが、賃金上昇は物価の更なる高騰を招く。そうなれば、年金生活者にとって来年もその先も、毎年、ダブルの年金減額が続くことになる。
厚労省の年金記録回復委員会委員を務めた社会保険労務士の稲毛由佳氏が指摘する。
「年金しか収入がない年金生活者はインフレリスクが大きい。年金の支給額が物価上昇率ほど引き上げられなければ、実質目減りしていきます。加えて、インフレが進めば資産も目減りするリスクがある。物価動向を注視して毎年家計を見直していかなければ、最悪、老後破綻という事態になりかねません」