「大学全入時代」と言われる昨今だが、大学進学率が過去最高(2023年度は57.7%)を更新する一方、少子化の進行により私立大学の半数以上(2023年度は53.3%)が定員割れという実態もある。そうしたなかで指摘されるのが、大学教育の「質の劣化」だ。新刊『ファスト・カレッジ』が話題の現役大学職員・高部大問氏は、学生が納める「学費」と大学が授ける「学歴」が、さながら「ファスト・サービス」のように交換されている、と指摘する。どういうことか──。
* * *
日本の大学は、ファスト化している段階です。ファストとは、ファスト・フードのファスト。今ではファスト・ファッションなど飲食以外のサービスにもファストは広がっています。それらを総称したファスト・サービスの特徴は、「迅速・安価・良質」といえるでしょう。無論、ファスト・サービスは便利で品質も悪くありませんから、それはそれでニーズがあります。
大卒という学歴や学位は、今のところまだ健在です。しかし、そのプロセスも同様に良質とは限りません。ファスト・フードやファスト・ファッションでは、最終製品を手にする最終消費者は生産のプロセスを目にすることがほとんどなく、知る由もありません。
大学も同じく、学位や学歴という最終的なアウトプットだけを見ても、プロセスが健全か否かは分かりません。大学が研究と教育をきちんと行えているのかが問題ですし、そもそも大学がファストでいいのかどうか、という大命題もあります。
大学のファスト化は2つの側面から生じ、加速していると考えられます。教員と学生です。ちょうど、ファスト・サービスが生産者と消費者の利害一致によって広がってきたように。
大学では何が受け渡しされているか。学費と学歴です。この構図自体は、今も昔も変わりません。変わったのは、そのプロセスです。無駄を省き、徹底的に効率化が図られています。従前、大学は学位を受け渡す過程で、一応は知見や経験を提供してきました。そこに使命を感じ、努めてきました。
ところが、それらがことごとく省略され始め、努力放棄が始まっているといえるのです。むしろ、どうやってショートカットするかに頭を使い、とにかく最短ルートを探し回る徹底した合理化の態度が感じられます。あたかもファスト・フード店が無駄な動きや作業やヒトまでも削減し、極限までスリムな体制で生産活動を行うように。