「一流」や「名門」とされる大学の卒業資格を得たからといって、その後の人生が安泰というわけではもちろんない。しかし、新刊『ファスト・カレッジ』が話題の現役大学職員・高部大問氏は、早く手軽に卒業資格を提供するだけの“ファスト・サービス”と化した今の大学のあり方が、従来ある様々な教育・社会問題を加速させていると指摘する。
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ファスト・サービスの成功の理由でもあり、その最大の特徴は、消費者に「考えさせない」ことにあります。ファスト・フード店の店員と客は都度交渉を行いません。流れるように見事な注文から受け渡し。そのスピーディさには一寸の無駄もありません。
ソコソコの割安感とソレナリの満足感を提供してくれるファスト・サービスの消費者は、余計なことを考えません。栄養や健康は自分で管理すればいい。「うまい・はやい・やすい」の受け渡し場では速さこそが正義で、そこに疑問を差し挟む余地はない。余計なことは考えなくていいのです。
大学についても同じです。余計なことは考えない。なぜ大学に行くのか、この授業は意味があるのだろうかなどは考えない。とりあえず単位。とりあえず卒業。とりあえずインターンシップ。とりあえず就職……。
なにも、受験生だけが考えないのではありません。大学教員だって考えない。猪突猛進です。毎年入学者の獲得に必死で、社会に追従し最先端を吸収することに必死で、それを教え込むことに必死で、社会に人材を供給することに必死なのです。
まるで、ハンバーガーを高速で準備・提供するかのような慌ただしさ。それほど、大学には考える余裕がなくなってきました。
だから、コロナ禍のときに湧き起こった「大学って意味あるんだっけ?」「授業が全部オンラインってお金払う価値ある?」という素朴な庶民感覚に、ほとんどの大学教員は黙して語らずでした。それくらい、大学のファスト化が進行していた、ということです。