重たいお金をどこまでも軽くしてやる。軽んじてやる
「本当にそんな生活をしていたの？ おくびにも出さなかったじゃない」と当時の私を知る人は、みんな同じことを言う。そりゃそうよ。ギャンブル狂であることをいかにしてバレないようにするか、細心の注意を払っていたもの。
誰かに見られないかと後ろを何度も振り返りながら消費者金融のドアを開いた日は、いつもの倍くらい快活に振る舞った。取り立ての電話に応対した日もそう。ギャンブルで追い詰められれば追い詰められるほど私は、“明るい野原さん”になった。
「でもさ。オバ記者って子供の頃からずっとバイトをして苦労してきたんでしょ？ なぜお金を粗末にするの？」と先日若いライターから聞かれた。ギャンブル地獄からすっかり離れて14年。その答えらしきものがやっと見つかったんだわ。
それは、子供の頃、這いつくばってお金を稼がねばならなかったから。その悔しさからお金とそれを中心に回っている社会に対する復讐をしたかったんだと思う。重たいお金をどこまでも軽くしてやる。軽んじてやる。笑っちゃうけど、ひとりで革命でもしているつもりだったのかもね。
それはそうと、ここ数年、ネットで流れていた大谷情報でずっと気になっていたことがある。それは、「大谷選手は水原さんに収入の数％しか渡せないことを申し訳ないと思っている」という美談だ。そう聞いて水原さんはどう思うんだろう？と、聞くたびにイヤな気がしたんだよね。かつての私なら、「申し訳ないと思うなら払ってくれ」と思ったに違いない。
「大谷さんの年収×○年×申し訳ない分＝○億円」。水原さんは違法賭博の胴元から借金をするときに、そんな計算が横切らなかったかしら。
いずれにしても、大金を稼ぐ人が近くにいなくて本当によかった、と自分を信用していない私は胸を撫で下ろしている。
【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子／1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。
※女性セブン2024年4月18日号
