人間の行動は必ずしも合理的ではない。人は誰しも先入観や思い込みゆえ、正しくない行動をしてしまうことがある。伝統的な経済学ではうまく説明できなかった社会現象や経済行動を、人間行動の観察や実験を通してとらえようとするのが「行動経済学」だ。貯金の習慣がなく、貯金ゼロ状態が続いている、女性セブンの名物ライター・野原広子さん(64才。通称・オバ記者)の行動を、行動経済学者の橋本之克さんがひもとく。【全4回の第4回。第1回 第2回 第3回を読む】
【Q:オバ記者の質問】
お金は必要なだけあればいい。懸命に貯めても使い切れなきゃ意味がない。貯金する必要ってある?
オバ記者:私は「貯まらない女」なんて言われたりするけど、実際のところ、貯金を何のためにするのか、私には明確な答えがないのよ。働けばいいじゃないって思っちゃう。
橋本さん:おっと。それは「いつまでも健康だから大丈夫」という気持ちがどこかにあるからでしょうか。
オバ記者:2か月分の生活費があればいいかな、と思ってんの。だってもし職を失ったとしても、2か月あれば次の仕事が見つかるじゃない?
橋本さん:すごいですね。雑草魂と言うべきか──。
オバ記者:みんな、「貯金しないといざというとき困るわよ」って言うんだよ。他人が私のような考えに同意してくれないことは知ってる。やっぱり間違っているのかな。
橋本さん:オバ記者さんの言葉には強い自信が感じられて、素晴らしいことだと思います。ですが、その一方で、無意識に自分に都合のいい情報ばかりを集めて、耳の痛い情報をスルーしているようなことはありませんか?
オバ記者:……。
橋本さん:そういったことはオバ記者さんに限らず、誰しもあることで、そうした気持ちの偏りを行動経済学では「確証バイアス」と呼びます。「バイアス」とは、考えや判断に特定の偏りをもたらす思い込みのことで、「確証バイアス」は心理的バイアスの一種です。たとえば……新しい時計を買ったとき、わざわざその商品の広告を何度も見直したりする、そんなこと、ありませんか?
オバ記者:あります。最近、私は「Apple Watch Series7」を買ったんですけど、その広告を見るともなしに見ちゃうことがよくあります。