米半導体メーカー「NVIDIA(エヌビディア)」の躍進が止まらない。時価総額は2兆3600億ドル(約356兆円)で全業種世界4位。世界的株高の牽引役となっている。話題の生成AI(人工知能)に欠かせないGPU(画像処理半導体)で世界シェアの92%を握る同社はなぜ「半導体戦争」の覇者となり得たのか──。エヌビディアの創業者、ジェンスン・フアン(黄仁勳)CEOの歩みを、ジャーナリスト・大西康之氏がレポートする。【前後編の後編。前編から読む】(文中敬称略)
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2008年に東京工業大学で講演したフアンは、学生たちに尋ねた。
「Yu Suzukiを知っていますか?」
鈴木裕といえば、1990~2000年代にかけて、セガで『バーチャファイター』や『アフターバーナー』といった数々のヒット作を生み出した伝説のゲームプログラマー。子供の頃から日本のゲームで育ったフアンにとって、憧れのエンジニアだ。
当時、最先端の画像処理機能を持っていたのが、ゲームセンターのアーケードゲームである。
『インベーダーゲーム』などの草創期からアーケードゲームはその画像処理機能を凄まじい勢いで進化させ、1993年にはセガが対戦格闘ゲームの『バーチャファイター』で画期的な3D(三次元)グラフィックスを採用した。
その画像処理の美しさに魅せられたフアンは日本に押しかけ、セガのCEOに会っている。
「どうやったらこんな小さなマシンで、これほど素晴らしいグラフィックスを動かせるのか」
質問攻めにしたが、技術的な秘密までは教えてもらえなかった。しかし、いちゲームファンとしての感動はやがて、経営者としての確信に変わる。
「ビジュアルコンピューティング(画像処理)は有益で美しく、そして楽しい」
エヌビディアは1995年に最初のパソコン向けGPU「NV1」を発売した。これが「バーチャファイター」の新作に採用され、「画像処理のエヌビディア」として世界に認知されるきっかけになった。