田代尚機のチャイナ・リサーチ

中国景気回復の起爆剤として期待が高まる「設備更新・買い替え促進」政策の詳細

中国で「買い替え促進」政策がスタート(Getty Images)

中国で「買い替え促進」政策がスタート(Getty Images)

 日本の輸出先トップに関して、2023年は米中順位が入れ替わった。米国が20.0%(ドル建て、確々報値、財務省貿易統計)でトップ、中国が2位で17.6%となった。逆転したとはいえ、米国向けは自動車・部品、原動機などのウエイトが高く、自動車とともに日本の輸出産業を支える機械メーカー、電子部品メーカーにとって中国は依然として重要な輸出先である。日本経済の先行きを予想する上で、中国の景気動向は非常に気になるところだ。

 3月の中国製造業PMI(国家統計局、物流購買聯合会)は50.8となり、景気の拡大・縮小の分かれ目となる50を半年ぶりに上回った。1-3月期の実質GDP成長率は5.3%で昨年10-12月期を0.1ポイント上回った。中国景気の影響を受け易い国際銅先物(当限つなぎ足、COMEX)価格は2月上旬をボトムに上昇しており、4月16日には、2022年6月以来の水準まで上昇している。

 一方で、需要、供給両面から積極的な支援策が打ち出されている不動産業界だが、1-3月の全国不動産開発投資は9.5%減と依然として政策の効果を確認できない。

 景気低迷の最大の要因は不動産不況からくる需要不足だが、それを解決する決定的な政策になるのではないかと、本土市場関係者は現在、政府主導による“買い替え政策”に注目している。

潜在的な需要掘り起こし余地は大きい

 正式な名称は「大規模な設備更新、消費財に関する以旧換新(買い替え)行動を推し進めるための方案」。3月1日に国務院常務会議による審議を通過、4月11日には国務院新聞弁公室が関連当局とともに定例のブリーフィングを開き、方案の意図、概要などを示した。それらを整理してまとめるとおよそ以下の通りである。

 国家発展改革委員会によれば、社会全体の設備ストックは約39兆3000億元(825兆3000億円、1元=21円で計算、以下同様)あり、この内工業設備は約28兆元(588兆円)を占める。工業・農業などの重点領域における設備更新投資は毎年、5兆元(105兆円)以上あり、自動車、家電はそれぞれ1兆元(21兆円)を超す。潜在的な需要掘り起こし余地は大きい。

 設備更新については、省エネ・二酸化炭素削減、DX(デジタルトランスフォーメーション)などを目的とし、工業、農業、建設、交通、教育、文化旅行、医療の7つの領域に重点を置いて推し進めるとしている。

 工業情報化部によれば、2023年における全国工業領域の設備投資額は4兆4000億元(92兆4000億円)で8.7%増加したが、これは設備投資全体の7割以上を占めており、この分野の需要掘り起こしによる景気浮揚効果は大きい。同部は6部門と連名で工業領域における設備更新を推し進めるための実施方案を既に発表しているが、今後、石油化学工業、鉄鋼、非鉄金属、建材、機械、軽工業、紡織、電子部品といった重点産業において、先端設備への更新、DX、環境にやさしい設備の拡大、安全性向上を目指すといった方針を示している。

 消費財の買い替えについては、自動車、家電、家具、厨房設備などの耐久消費財を中心に質の高い製品を多様なルートで消費者の生活空間に浸透させるとしている。

 自動車では、燃費が悪く、排ガス量が多くて使用年数の長いものを、新エネルギー自動車などに買い替える。家電では、水の消費量、消費電力が大きくて、部品の一部が劣化して安全性の面で問題のあるような製品を、節水、節電タイプに買い替える。消費者が自ら進んで買い替えるよう当局が導くとしている。

 さらに、更新される設備、取り換えられる製品を回収し、リサイクルし、中央、地方政府の官僚による自由裁量によらないように対象を絞り込むための標準をしっかりと定める。

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