「採算?母性に値段はつきません!」
そんなこんなで、狭いわが家にあっという間に7台が積み上げられた。いや、実のところ、私が手に入れたミシンは全部で13台で、6台は油を差して、ちょっとした整備をして知り合いに譲り渡している。
でも、その熱もあるとき急に冷めたのよ。
私はふと疑問に思ったの。程度のいい、中古の高級ミシンがヤフオクに途切れることなく並んでいるのはおかしくないか?と。そもそもこんな高級品を買った人は誰?と。
その謎は、友人の一言でスッと解けた。
「子供が保育園に上がったとき、おばあちゃんがミシンを送ってきたの。せっかくだから子供用の袋を3、4枚は縫ったけど、私はそもそも手芸なんか好きじゃない。あとは押し入れ行きよ。え、あのミシン、34万円もするの? てことは子供の袋は1枚10万円!?(笑い)」
これですっかり納得したね。いまの平成生まれはどうか知らないけど、昭和生まれの私たちには、ミシンで縫い物をする母に“たらちねの母”のイメージがカッチリと重なるんだよ。「採算? 母性に値段はつきません!」てなもんよ。とはいえ現実はまた別の話でね。ミシンを母親から買ってもらったからといって、実際に使う人はごく少数。あとは押し入れからヤフオクへと流れていく。
そういえば、私が「洋裁が好き」と言うと、「意外に女子力が高いのね」と返してくる人がかなりいるんだよね。とことんやった私にはわかるんだけど、ミシンを操るのは機械やプラモデルの組み立てが好きなのと同じで、女子力も母性も関係ない。要は性差ではなく、趣味嗜好なのよ。
一事が万事でね。世の中にはびこっているイメージって、現実とはずいぶん違うんだなと気づいたのはミシン13台のおかげよ、とここはキッパリ言いたいな。
【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子/1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。
※女性セブン2024年5月2日号