調停で得するのは弁護士だけ
少ない遺産の奪い合いほど虚しいことはない。吉澤氏が実例をもとに語る。
「3人兄弟の長男が実家で親と同居していたケースでは、親が亡くなった際、遺産は評価額900万円ほどの借地付き建物のみ。次男と三男は権利として遺産の3分の1にあたる300万円を要求しました。長男には貯金がなかったため、現金を捻出するには実家を売るしかありません。しかし、長男は体調が悪く実家なしでは暮らせない。話し合いは平行線をたどり、今も泥沼の争いが続いています」
限られた遺産しか残っていないのに、親を介護していた長男が弟や妹より多くの遺産を要求したり、生前に親から贈与を受けたかどうかの不公平が生じていれば、話はいよいよまとまらなくなる。
そうした相続トラブルの末に、「調停」や「審判」にまで発展するのが最悪のシナリオだ。
親の死後に遺産分割協議で話がまとまらなかった場合、家庭裁判所で遺産分割調停を行ない、分割方法についての合意を模索する。そこでも合意に至らなければ調停は不調となり、遺産分割審判に進んで最終的に裁判官が結論を下す。
「調停や審判まで進んで金銭的に得した人や結果に納得した人を見たことがありません。最終的に法律に従った分割になるだけで、数年間、兄弟姉妹で争って疲弊し、嫌な思いが残るだけ。しかも、弁護士からは成功報酬として相続額に応じた額の報酬を要求される。調停や審判をしても、儲かるのは弁護士だけのケースもあるのです」(吉澤氏)
前述の通り、家裁に持ち込まれる相続トラブルの7割超が5000万円以下の争いだ。時間とお金と労力をかけた末に、兄弟姉妹の仲が悪くなり、手に入った遺産も残りの人生を遊んで暮らせるような額には到底ならない。そんな現実を踏まえれば、むしろ「遺産は相続しない」という結論こそが、正解となる場合もある。
※週刊ポスト2024年5月17・24日号