さらには、岐阜県中津川市の馬籠と長野県南木曽町の妻籠。かつての中山道の宿場町で、馬籠から妻籠までは約8km、徒歩2時間ほど。江戸時代の街道の風情があるというが、実際は単なる山道で、食堂や茶屋、土産物屋、民宿が点在するだけの鄙びた観光地である。しかし、その2つの宿場町の間を「歩く旅」が人気を集めているのだ。
これらはいずれも実に素朴な江戸時代の名残をとどめる観光地で、日本人にとっては「何もない」かもしれないが、それが外国人の目には魅力的に映るのだ。
実は世界でも、寂れ果てた「何もない田舎」の人気が高まり、そのニーズを取り込むための動きが活発になっている。たとえば、イタリアの「アルベルゴ・ディフーゾ(分散型ホテル)」は、日本と同様の少子高齢化による過疎対策、とくに空き家問題を観光産業で解決しようという取り組みだ。具体的には、集落内の空き家をレセプション機能を持つホテルに再生し、それを中核施設として半径200m以内に宿泊施設やレストランなどを集約するもので、より広域(半径1km以内)に施設を分散して旅行者に統一的なサービスを提供する「オスピタリタ・ディフーザ(分散型おもてなし)」というコンセプトもある。
サンティアゴ巡礼路、アマルフィ…海外で人気の「歩く旅」
もう1つの観光トレンドは馬籠・妻籠のような「歩く旅」だ。その象徴は、スペインの「サンティアゴ巡礼路」である。フランスをはじめヨーロッパ各地からピレネー山脈を経由してスペイン北部に通じ、キリスト教三大聖地の1つサンティアゴ・デ・コンポステーラに向かう巡礼路だ。20世紀は巡礼者の数が減少して廃れていたが、21世紀に入ってから右肩上がりで巡礼者が増えているのである。
イタリアの有名観光地アマルフィ海岸も、今はドライブより「歩く旅」が人気だ。断崖絶壁の急斜面に築かれたポジターノやラヴェッロなどの美しい街や葡萄畑をガイドが徒歩で案内し、ワインセラーを訪れて崖の上や海岸沿いのホテルに宿泊するというツアーである。