荻原氏のように「遺産はいらない」と宣言するやり方は、非常にシンプルな手続きで済む。
相続・贈与に詳しい税理士の山本宏氏が語る。
「遺産分割協議の際に『相続しない』と宣言して、遺産分割協議書に相続放棄の意思を署名とともに記す。そのうえで印鑑証明を添付して実印を押すだけです」
それにより、“争族”に巻き込まれるリスクもなくなるし、今年4月に義務化された不動産の相続登記といった手続きの手間も必要なくなる。
借金の有無を確認
ただし、この方法には注意すべき点もある。
『身内が亡くなってからでは遅い「相続放棄」が分かる本』の著者で司法書士の椎葉基史氏が語る。
「“相続しない”と記した遺産分割協議書へのサインはあくまで意思を身内に表明しただけで、法的に相続放棄したことにはなりません。それだと、被相続人(亡くなった親など)に借金などマイナス資産があった場合、債務の請求を拒否できないので要注意です。
故人の債務を継がないようにするには、家庭裁判所で正式な『相続放棄』の手続きを取ることが必須です」
荻原氏も注意を促す。
「父には借金がなかったので、私は“相続しない”と宣言するだけで済みましたが、大きな負債があったら家庭裁判所で相続放棄の手続きを取ることを考えていました。どのような選択をするにしても、プラスだけでなくマイナスも含めて親の遺産を正確に把握することが求められます」
親が子に隠れて借金をしているケースは、実は決して珍しくない。
※週刊ポスト2024年5月17・24日号