相続をめぐるメディアの情報は「どうすれば得できるか」に終始していることがほとんどだ。実は、多くの人の相続において重要なのは、「どうトラブルや負担増を避けるか」というポイントになる。だからこそ、「あえて相続しない」という選択肢が有力になってくる。
テレビのコメンテーターなどとしても活躍する経済ジャーナリストの荻原博子氏(69)は、電子部品の製造会社を営んでいた父親の存命中から、「実家を含めた親の遺産はいらない」と宣言してきたという。
「それまでの取材経験から、相続で兄弟姉妹が揉めて骨肉の争いとなるケースを数多く見てきたし、友人が相続トラブルで姉2人と不仲になり、最後は音信不通になった例も知っています。
私には妹と弟がいますが、自分たちが相続で争うことは絶対に嫌だったので、父が生きているうちから『遺産はいりません』と家族に伝えていました。長女の私が相続しなければ、あとは妹と弟が話し合えばいいし、2人が揉めそうになったら、中立の第三者として仲裁役になればいいと考えたんです」(荻原氏)
2017年に97歳で亡くなった父親は自宅のほかに株券と現金合わせて1000万円ほどの遺産を家族に残した。宣言通り、これらを相続しなかった荻原氏だが、いい判断だったと思っているという。
「父の死後、自宅は存命の母の名義に変更して、妹と弟は円満に相続の手続きを済ませました。相続で兄弟姉妹の人間関係が壊れると法事なども開けなくなりますが、うちは私が引いたというのもあってか色々とスムーズに運びました。ベストな選択だったと思っています。97歳になった母は施設に入所して、今は実家を妹と弟が事務所として使っています。2人には『好きなようにして』と伝えており、この先も妹と弟が話し合って使っていくはずです」