2024年の中学の受験率は過去最高を記録。そんな中学受験の盛り上がりを支えているのが、SAPIXなどの大手塾の存在だ。親たちは塾選びをどのような観点で行い、塾に何を期待しているのか。『中学受験 やってはいけない塾選び』が話題のノンフィクションライター・杉浦由美子氏がレポートする。【SAPIXと夢・全3回の第2回。第1回から読む】
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中学受験は夢を見られる受験である。なぜなら、「やってみないと分からない」からだ。公文式とも小学校の学習とも中学受験の内容は違うから、小学3年の2月の入塾時に下位のクラスにいても、半年後には上位クラスに入っていく生徒もたくさんいる。ようは「中学受験に向いているか否か」が結果を左右するのだ。
そんな「うちの子は中学受験に向いているかもしれない。難関校に合格できるかも」という夢を持ったときに選択されるのが、圧倒的な合格実績を出しているSAPIXである。関東の最難関男子校・筑駒の2024年度の合格者128名のうち、SAPIX生の数は98名(SAPIXのホームページより)。つまり8割近くがSAPIXの卒業生だ。
専門商社で正社員として事務の仕事をしているA子さん(40代・世田谷区在住)も夢を見たひとりだ。もともとは営業職だったが、出産後に事務職になった。仕事はルーティンかつ煩雑で面白みにかけるが、営業時代よりは早く帰宅ができるし出張もない。
刺激がない仕事を続けるためには、働くモチベーションが必要としての“夢”が必要になろう。それはアイドルの推し活だったり、マンション投資だったりするが、A子さんは娘の中学受験を選んだ。自分が中学受験の時に憧れたが受験すらできなかった名門校フェリス女学院に入学させたいと思い、SAPIXに入塾させた。小学4年の最初は上位クラスのαクラスからのスタートだった。
SAPIXは毎月のマンスリーテストや年に数回の組分けテストでクラスが上下する。
「マンスリーはその1か月で学んだことの確認です。そのため、点数が取れていたんですが、問題は組分けテストです」
3月、7月、1月に組分けテストがある。1月の組分けでクラスが大きく落ちてしまった。
「社会や理科の知識問題が全然だめだったんです。算数の宿題を優先していたのがネックだったみたいです」
社会や理科で抜けているところのやり直しをさせることにした。そこで夫婦で話し合って、家事はA子さんの役割、勉強の管理や塾のお迎えは夫の仕事となった。勉強は好きだが、家事が苦手な夫からの申し出でそうなったという。