無数のワンタップが問題を肥大化させたケースは枚挙に暇がない。5月初旬にはX上の《子持ち様が「お子が高熱」とか言ってまた急に仕事休んでる。》という書き込みが炎上。一人のユーザーが子育てのために仕事を休む同僚への愚痴をつぶやいただけのはずが、「子供を理由に仕事をサボるな」「子供のいない女性のやっかみだ」などとあらぬ方向に議論が激化し、複数のニュース番組などで取り上げられる事態にまで発展した。
また2023年に回転寿司大手チェーンのスシロー店内で当時17才の少年がしょうゆ差しのボトルなどを舐める迷惑動画が拡散された、いわゆる「スシローペロペロ事件」では、SNSを中心に少年の顔写真や学校名などが特定・拡散され、少年はスシローの運営会社とは和解したものの、自主退学に追い込まれた。
SNSでの“制裁”が快楽に直結
SNSの炎上問題などを分析する、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授の山口真一さんが言う。
「ネットリンチが現実のいじめと異なるのは、叩かれる側もルールやモラルに反することをしているケースが少なくないこと。だからこそ正義感が過激化して『私刑』と化し、その結果、時に過剰とも取れるほどの社会的制裁につながるのです」
やっかいなのは、SNSでの“制裁”が快楽に直結することだ。
「正義感をもって他者を攻撃すると、脳内に快楽物質のドーパミンが出る。例えば、不祥事を起こした著名人や企業のSNSが炎上して社会的制裁を受けると、炎上に加担した人は“自分が社会を動かし、これほどの人物(会社)に罰を与えてやった”と錯覚します」(山口さん)
“自分の力で社会を動かす”ことにゆがんだ快楽を覚えたユーザーは、再び次の獲物を探してSNS上をさまようようになる。青少年のインターネット利用問題に詳しいジャーナリストの石川結貴さんが指摘する。
「投稿の閲覧数がひと目でわかるSNS上では、炎上させて自分のコメントが注目されることに価値を見いだす人もいる。過激な発言をすればするほど“アンチヒーロー”として称賛を集めるのも、SNSのゆがんだ特性です」
(第3回〈【SNSの闇】一度でも有害な動画を閲覧すると類似動画を“おすすめ”される恐怖〉に続く。第1回から読む)
※女性セブン2024年5月30日号