高齢者がひとりで最期を迎えるのは、不幸ではない──そう喝破してベストセラーとなった『おひとりさまの老後』の著者である社会学者の上野千鶴子氏(75)。親子が距離を取って暮らす「親不孝介護」が注目されていることを聞くと、「“何を今さら”という感じがします」と切り出した。
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高齢の親とその子をめぐる現実は、すでに大きく変化しています。この30年で世帯構成はがらりと変わりました。内閣府の「高齢社会白書」によると、1980年は三世代同居が半数を占めていましたが、現在は10%以下にまで減少しています。
背景には「家計の共同」の消滅があります。昔の高齢者は、現役引退後は稼ぎがなく、息子や娘に頼らざるを得なかった。それを変えたのが年金制度。三世代同居の時代から世帯内で親子の家計分離が進み、さらに介護保険が始まる2000年頃には、会社勤めを経て国民年金だけでなく厚生年金を受け取れる高齢者も増えた。
親は子の財布に頼る必要がなくなったし、子も親の財布の面倒を見なくてよくなった。そのため、世帯分離以前に家計分離が進行しました。そもそも親も子も「一緒に暮らしたくない」が本音。そのことが明らかになったのではないでしょうか。
1980年代は、親夫婦のどちらかが亡くなった後、子の家に移り住む「呼び寄せ同居」が多かったが、幸福度が低いことが分かりました。親は住み慣れた土地から離されて都会の狭い家に住まわされる。昼間は専業主婦の妻が夫の親とふたりきりでストレスをため込む。親も子も不幸だった。
そういった同居が親孝行と認識された時代がありましたが、愛情からくるものだったかは甚だ疑わしい。その正体は、親をひとりにしておくと周りから責められる、という社会規範や義務感だったと考えられます。だとしたら、そんなもの親孝行とは言えないでしょう。