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上野千鶴子氏が語る“おひとりさまの老後と介護” 「義務感からの『呼び寄せ同居』は親孝行とは言えない」「親は子が背負える程度の迷惑をかけたらいい」

認知症も乗り越えられる

 年金保険、健康保険、介護保険。この3つの国民皆保険が現状のレベルを維持する限り、“おひとりさまの老後”は問題なく完遂できます。慣れ親しんだ自宅で、ひとりで死ぬことも可能です。

「認知症になったら在宅でひとりは不安だ」とおっしゃる方もいますが、全く問題ない。介護保険制度がスタートしてから四半世紀で、認知症ケアは大きく進化しました。認知症対応型通所介護、いわゆる認知症デイサービスは充実しましたし、料理ができなくなったら配食サービスもある。いちばん手がかかるのは動き回る認知症高齢者ですが、それも限られた時期のことなので乗り越えられます。

 しかし現在、こうしたおひとりさま生活を支える介護保険制度が崩壊の危機にある。国はこの4月から在宅介護の要である訪問介護の基本報酬を一律に下げました。倒産する事業所が急増することが懸念されています。

 親孝行したければ別居して距離を取ったほうがいい。それは親のためでも、子のためでもある。そして、それができるのは介護保険のおかげ。よく、高齢者福祉が手厚すぎるという世代間対立を煽る議論がありますが、惑わされないでほしい。

 介護保険があっても、家族の責任が完全になくなるわけではありません。家族には、意思決定という大きな責任が残ります。ですから、親は子が背負える程度の迷惑をかけたらいいし、子は親を見送った時に「哀しい」思いと共に「肩の荷が下りた」という安心感の両方を味わえばよい。それでよいのではないでしょうか。

※週刊ポスト2024年5月31日号

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