共働きが当たり前となり、育児休業や時短勤務など「仕事と家庭を両立するための支援制度」を利用する人が増えている。そうしたなか、SNSなどでは子育て中の社員を「子持ち様」と揶揄する投稿が増え、職場で彼らの業務をフォローする周囲の社員からの不満が噴出している。社会に渦巻く「子持ち様」批判を職場で放置すると、どんなリスクがあるのか。フリーライターの岸川貴文氏が組織心理学の専門家に話を聞いた。【前後編の後編。前編から読む】
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時短勤務や残業規制、テレワークやフレックス勤務などの普及により、育児休業取得後に職場に復帰するケースが増えている。家庭と仕事の両立を支援するそれらの制度が拡充される一方で、子育て世帯が優遇されることに不公平感を抱える人もいる。
昨年11月、〈子持ち様が「お子が高熱」とか言ってまた急に仕事休んでる。部署全員の仕事が今日1.3倍ぐらいになった〉というXの投稿が大きな反響を呼んだ。4月3日にニュースサイト『ハフポスト』が記事で取り上げたことを皮切りに、テレビや新聞が連日のように「子持ち様」問題に注目。育休からの職場復帰が増える5月以降も記事が頻出している。
そうした状況を側面から刺激したと思われるのが、同時期に報じられた岸田政権が進める「子ども・子育て支援金を健康保険料に上乗せ」だった。「未婚・子なし世帯」の「またか」の感は否めない。彼ら彼女らが抱く不公平感が軽視できないレベルに達していることは、報道への反響を見れば明らかだ。
とくに職場での「子持ち様」問題は大きな火種になる可能性がある。組織心理学が専門で働く人の心理に詳しい立命館大学スポーツ健康科学部の山浦一保教授はこう指摘する。
「働く人は基本的に『自分の働きの割に見返りが少ない』という心理がベースにあります。それなのに同じ職場で誰かが優遇されているのを見れば、『子持ち様』などと言ってみたくなる気持ちが出てくるものです。
そこで何も対処せずにいると職場内の雰囲気が悪くなり、分断が起きます。陰口をたたいたり、本当はいいところがある人なのに認めなかったり、低い評価を下すなどして優遇された人を排除するのです。あるいは協力しないでおこうとか、足の引っ張り合いのような“手っ取り早い”対処法を選択する傾向を強めます。この傾向は、チーム全体のモチベーションを下げ、生産性の低下を引き起こします」(以下同)