子供の保育園入園を機に育休を終え、職場復帰する人が増える5月。ほぼ時を同じくして、テレビや新聞などのメディアがこぞって職場の「“子持ち様”批判」について報じた。SNSなどで見られる批判のなかには、育休中や職場復帰後の時短勤務、子供の急な発熱での休業などの「穴埋めをさせられる職場の仲間」からの愚痴や恨み節も目立つ。共働きが当たり前となり、「仕事と家庭を両立するための支援制度」を利用する人が増える今、職場の大小にかかわらず、この問題に直面する人は多い。子育て中の社員とその周囲の人を分断しかねない「子持ち様」問題に我々はどう向き合うべきか。フリーライターの岸川貴文氏が、組織心理学の専門家に話を聞いた。【前後編の前編】
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「表面は礼儀正しいように見えるが、実は無礼で、過ぎると嫌味になること」──「慇懃無礼」の辞書的解説である。様々な世代が共に働く職場などでは、丁寧な言葉遣いであるがゆえに嫌味で相手を見下している言い方をする場合がある。代表的なのが、「お局様」だろう。年長の女性社員を、けむたい存在として揶揄していう言い方だ。
その「〜様」に新たな用法が加わった。「子持ち様」である。「子持ち様」はネットスラングの一種で、SNSで拡散されると人々を刺激しやすいワードだ。ネットを閲覧すると、この「子持ち様」には2つの用法があるようだ。
一つは、電車の車内や飲食店などの公共の場で、「子供連れ」であることを大義名分にするかの如く、周囲に迷惑をかけても頓着しない大人を指すケース。もう一つは、職場で、子育て中の社員が子供の急病などで休んだ場合などに、その業務をカバーする側の社員が不満をもって使うケースだ。
後者のケースとして最近話題になったのが、昨年11月、広く拡散された〈子持ち様が「お子が高熱」とか言ってまた急に仕事休んでる。部署全員の仕事が今日1.3倍ぐらいになった〉というXへの投稿だ。
4月3日にニュースサイト『ハフポスト』が〈「子持ち様」と呼ばれる子育て社員。対立招く企業の構造に問題は〉と題して取り上げると、数千を超えるコメントが付き話題となり、その後もテレビや新聞が連日のように記事で取り上げ、沸騰ワードになった。「子持ち様」という言葉は、働く人の心の底にあった有象無象のものを白日の下に晒すことになったのかもしれない。