属性の違いを乗り越えるには
人材不足で、企業はどこも従業員の働きやすさに注力するようになり、さまざまな支援策を講じている。誰を支援するか決めるためにはどこかで線引きして区別しなければならないが、そこに分断の萌芽が生まれてくることに留意したい。区別して対応・支援することは必要だが、やりすぎてしまうと副作用が出ることにもなり得る。
カテゴライズするときにどこにも当てはまりにくいのが「未婚」「子供なし」の人たちだろう。家庭と仕事の両立を支援する制度の数々は、「どのカテゴリーにも入らない私はこの制度を使えない」とか、「どこにも属さない私がカバーするしかないのか」と思い、損をしていると感じるのも理解できる。どこかで「私は大切にされていない」と感じているかもしれない。
「どんな個人にもチャンスがあり、評価してもらえるというシステムがないと、今後、『子持ち様』問題は形を変えてずっと続いていくと思います。属性やカテゴリーではなく、働く個人をそれぞれしっかりケアしていくことです」
ダイバーシティ(多様性)やインクルージョン(包摂)は現代社会の重要事項だが、属性の違いを乗り越えていくために何が必要なのか。それには昔ながらの職場づくりがヒントになると山浦教授はいう。
「お互いに事情がわかっていて、人間関係がしっかりできていれば『子持ち様』などという感覚にはならず、『お互い様』で済む話のはずです。そうならないのは、そもそもの人間関係ができていないから。
物理的に距離ができると心理的に距離が離れてしまう。だから昔から社員旅行に行ったり、運動会をやったり、バーベキューをしたりして社員間の距離を縮めるようにしてきました。そうした交わりの中から、その人の事情や都合、考え方を知り、互いに受け入れるきっかけにしていました。
昨今、こうした取り組みを復活させている企業もありますが、そういう企業は社員の分断を防ぐ意味を知っているのだと思います。社内イベントに参加した人から『最初は億劫に感じたけれども意外に楽しかった』という声をよく聞きます。社員旅行でなくても雑談するだけでもいいので、社員同士が交流したくなる場をつくるようなマネジメントをしていくといいのではないかと思います」
歴史を紐解くと、日本の会社は、親族や近所の人が家業の手伝いをする中で拡大していった側面があり、西洋における資本家と労働者の関係よりも家族感覚が強かったとされる。社員を家族同様に大事にする日本企業の「人を大切にする経営」こそ、今の時代にフィットするあり方かもしれない。
(了。前編から読む)
取材・文/岸川貴文(フリーライター)