香港市場は不動産セクターが上昇相場を牽引
これらの政策とはまた別に、不動産の以旧換新(買い替え)政策が実施されている。さらに、これまで実施されていた厳しい購入制限の取り消し、緩和から、一部戸籍制度の緩和(不動産購入者による現地での戸籍取得)に至るまで、中央、地方があらゆる角度から、在庫を減らし、需要を刺激し、供給の質を高めようとしている。
公有制を原則とした中国独特の不動産市場、市場経済と社会主義が混在する金融システム、行政を主体とした強力なマクロコントロール体制などについて、自由主義体制に属する欧米機関投資家たちはこれまで否定的な見方をしてきた。しかし、足元ではそうした態度が変わってきたようだ。
香港市場は欧米機関投資家が強い価格支配力を持つ市場だが、それを代表するハンセン指数は4月19日を起点として上昇トレンドを形成しており、5月20日現在、終値ベースで21%上昇している。中国の資本市場改革や景気回復期待を織り込んでの上昇だが、後者について特に不動産市場の回復への期待が高く、不動産セクターが上昇相場を牽引している。わずか1か月の間に、世茂集団の株価は4倍、時代中国控股は2.9倍、遠洋集団は2.4倍、合景泰富集団は2.3倍となっている。中国の不動産業界を代表する銘柄の一つである万科企業は85%上昇している。
中国の経済システムは、日本のそれとは似ても似つかない。不動産問題について、日本のバブル崩壊やその顛末が中国で繰り返される可能性は限りなく小さいだろう。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。