「材料工学」というと、「それってお料理ですか?」と返答される
――確かに、理学部の化学科は昔から女子学生は多いです。女子学生は化粧品や日用品などのメーカーへの就職を憧れる場合も多いですから、理学部はその希望の就職に近づけるように見えるでしょうね。実際にはそれらのメーカーへ工学部からも多く就職していると思いますが。
「高校生にとって工学部の内容や専門性は想像が難しいのだと思います。私の専門は材料工学で、工業製品の材料であるアルミニウムやゴムといったものの研究です。ところが『材料工学を教えています』と高校生に伝えると『お料理の材料ですか?』と返されることがあります。
一方で、材料工学がなにかを具体的に理解して選択し本学で学んだ女子学生は、化粧品や日用品などのメーカーへ就職していくケースはとても多いんですよ。また、高校生にとって土木工学も少し想像が難しいと思いますが、その中身はPCやドローンを駆使した測量や計測など、高度な最先端の技術を駆使するもので、最初に持つ『土木』のイメージとは大きく異なるでしょう。実際に本学の土木工学科には多くの女子学生が在籍しておりますし、彼女たちの就職先も自治体からプラントメーカー(三菱重工業やクボタなど)と多岐にわたり、キャリアの選択肢も幅広いのが工学系学部の特徴だと思います」
――パソコンを使った設計などの仕事は、リモートワークも多いから、育児との両立の面でも女性も働きやすいですよね。
「かつては女性は出産をしたら、仕事を辞めたり、業務内容が変わったりすることもしばしはありました。医療専門職につける学部……医学や薬学が人気だったのはそういった社会背景があったからだと思います。医療専門職の資格があればいったん仕事を辞めても同じ仕事に復帰できるからです。
しかし、今は民間企業で働いていても出産後も働きつづけられますから、もっと視点を広げてもらいたいですね。本学が女子枠入試を始めたのは、大学に女子学生を増やして学生の多様化を目指すと同時に、企業からの理系女子学生のニーズに応えたいということもあります。昨年まで私は就職担当をしていましたが、女子学生の就職は非常に好調です。いくつも内定をもらってどこに行こうと悩んでいる女子学生の姿を毎年、よく見かけます」
今回はなぜ、女子生徒が工学部へ進学をしたがらないかについて、芝浦工大の新井剛教授に訊いた。次回はインタビューの続きを公開していく。工学部の女子は就職が非常に好調だという。では、それはなぜなのか。また、総合型選抜で「学力は十分なのか」という根強い指摘もあるがそれを大学としてどう考えるのか──。
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【プロフィール】
杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ)/ノンフィクションライター。2005年から取材と執筆活動を開始。『女子校力』(PHP新書)がロングセラーに。『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)も話題に。『中学受験ナビ』(マイナビ)、『ダイヤモンド教育ラボ』(ダイヤモンド社)で連載をし、『週刊東洋経済』『週刊ダイヤモンド』で記事を書いている。