東京工業大学や京都大学などの国立大学の工学部で「女子枠」入試を開始することになり話題を集めている。背景には工学部に女子の志願者が少ないことがある。現場の大学側はどのように考え、対策をおこなっているだろうか。『中学受験 やってはいけない塾選び』が話題のノンフィクションライター・杉浦由美子氏がレポートする。【前後編の前編。後編につづく】
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工学部は就職が非常に好調な学部である。ところがなぜか女子学生が集まらないという悩みを抱えつづけている。それを打開すべく、東京工業大学や京都大学などの国立大学の工学部で「女子枠」入試を開始することになり話題を集めている。今や国立大学の4割が「女子枠」入試をすでに導入、あるいは導入見込みであると報じられているが、その中で格差も起きている。
2024年の東工大の物質理工学院の女子枠入試は募集定員20人に対して志願者数が128名で、6倍を超える盛況ぶりだが、一方で富山大学工学部や金沢大学理工学域、大分大学理工学部などの女子枠入試は定員割れだ。
金沢大学理工学域 機械工学類の女子枠は定員20人に対し、14人の志願者で、合格者が11人。この金沢大学の女子枠入試は評定偏差値、英語検定資格や英語テストのスコアでの出願条件はなく、共通テストで数学・理科・外国語を受験することのみが出願要件となっており、出願のハードルは高くないにもかかわらずだ。地方の国立大学工学部で女子を集めることがいかに厳しいかが分かってこよう。
現在、女子大に学生が集まらなくなっている。企業が一般職採用をしなくなったので、女子も男子と同じ条件の総合職で就職をしないといけない。そうなると女子大に行くメリットが分かりにくくなっているからだ。そういう総合職志向の中では工学部は女子にも人気が爆上がりしていいはずだが、なぜかそうはならない。
このように、注目を集める工学部の「女子枠」入試だが、これをいち早く導入した私立大学が東京・豊洲の芝浦工業大学だ。2018年度から女子枠入試を始めている。芝浦工大は就職が非常に好調なことで知られる。『大学通信』が発表した「2023年有名企業400社実就職率ランキング」で12位。私大では豊田工業大学、慶應義塾大学、早稲田大学、東京理科大の次にくる。その芝浦工大も長年、女子率の低さに悩んできたが、女子入学者の比率が2023年度の21.2%から2024年度は26.6%と上がってきている。いち早く女子学生を増やすために創意工夫や努力をして、それが数字に表れているようだ。その芝浦工大のアドミッションセンター長の新井剛教授に話を訊いた。まずは「なぜ、女子は工学部を選ばないのか」について質問をぶつけた。
――そもそもなぜ工学部は女子が少ないのでしょうか。就職実績がいいので人気があってもいいと思いますが。
「理系を選択する女子は増えていますが、高校で進路を考える時にバイアスがかかってしまうんです。親御さんなどの周囲の大人が『せっかく理系に進学するなら手に職をつけた方がいい』と医学部や薬学部への進学を勧めます。医療系以外の仕事につきたいとなると、理学部を選択することが多いんです。理学部が化学科や数学科、物理学科など、高校での学びに直結しており、なにを学ぶかが分かりやすいからでしょう」(新井教授・以下同)