全人類が先進国並みの豊かな暮らしをすることは難しい
経済学者で、『次なる100年:歴史の危機から学ぶこと』の著者である水野和夫さんは、地球儀を俯瞰して人口減少を考える。
「20世紀に世界中で人口爆発が話題になり、国連は、地球の人口は100億人に向かって増えていくと試算しました。一方で地球の資源には限りがあり、ある研究によれば、世界中の人間が先進国並みの暮らしを送ろうとすれば、人口25億人が限度だそうです。いまの人口80億人はこの限界をとっくに超えています。
ならば、先進国の生活水準を中所得並みに落としたらどうなるか。この場合、地球で暮らせる人口は74億人ほどと試算されますが、先進国の人は生活レベルを落とすことを当然嫌がるでしょう」(水野さん・以下同)
全人類が先進国並みの豊かな暮らしをしようと欲しても、有限な地球の資源では到底賄いきれない。にもかかわらず、いまなお途上国を中心に人口は増え続けており、このままでは資源が追いつかず、地球全体で見れば先進国の人々は生活水準を下げざるを得ないだろう。そうした現実に薄々気づいているからこそ、先進国の人たちは少子化を“選択”しているという見方もある。
「豊かな暮らしをする先進国の人は、“このまま行けばみんなが貧しくなる”と気づいています。だからこそ、“子の世代にも親の世代と同じような暮らしをしてほしい”と、本能的に生まれる子供の数を減らしているのではないか。
出生率の低下は日本だけでなく、先進国に共通する特徴です。そこには“これまでと同じ人口ではとうてい生活水準を維持できない”との心理が働いていると考えられます」
少子化が自然の摂理かつ人々の合理的な選択であるならば、果たして各国の状況はどうか。『人口減少社会のデザイン』の著者で、京都大学人と社会の未来研究院教授の広井良典さんが話す。
「ヨーロッパに目を向けると、イギリスとフランスとイタリアの人口は約6000万~7000万人で概ね同水準です。
イギリスの面積は日本の3分の2で、イタリアは日本よりやや小さく、フランスは日本の約1.5倍。ドイツは日本と面積が同じくらいで、人口は8000万人強です。対する日本の人口は1億2000万人強。ヨーロッパ主要国と比較して、日本は現在の人口水準を絶対的に維持する必要があるとは思えません」