ビジネス

北海道のローカルコンビニ「セコマ」愛好家たちが語る激推し商品 専門家が分析する「東京進出」の可能性

業界の常識が通用しない「北の最強コンビニ」

 道内ではごく身近なコンビニのセコマだが、道外には茨城・埼玉の関東2県に計98店舗があるのみ。全国的には馴染みの薄い存在だ。

 しかし、その歴史は古く、1971年オープンの1号店『セイコーマートはぎなか店』(札幌市)は「日本最古のコンビニ」にあたる。元『月刊コンビニ』編集長で札幌市出身の流通ジャーナリスト・梅澤聡氏が解説する。

「セブン-イレブンをはじめ、いまなお営業中の国内コンビニ各社のなかで、最も早く開店したのは実はセイコーマートです。創業者であり、当時は食品卸会社の社員だった赤尾昭彦氏は1960年代後半に流通先進国のアメリカへ渡り、中小小売店の生き残りをかけたビジネスモデルとして本場のコンビニチェーンストア理論を研究しました。帰国後、道内各地の取引先の酒販店や食料品店を説得してまわり、いちはやく本格的なコンビニチェーンへと業態転換させたのが、セイコーマートのはじまりです」

 そうした創業者の“先見の明”もあり、セコマは50年以上にわたる歴史のなかで、単なる顧客を超えた“セコマファン”も生み出してきた。道内だけでなく、熱狂的ファンは全国にも広まっており、Facebook上には非公式ながら6000名を超えるファンコミュニティも存在する。

北海道出張時は海鮮丼より「セコマのカツ丼」

カツ丼フタなし

カツ丼フタなし

 セコマの魅力とはどんな点なのか。“セコマフリーク”を自認する人たちに話を聞いた。札幌在住の30代自営業男性・A氏は、セコマの魅力のひとつに“店内調理の味”を挙げる。

「店内には、店内併設の本格的な調理場でつくられたパンやおにぎり、お弁当、惣菜、フライドチキンなどのホットスナック類が、常に温かい状態で並んでいます。電子レンジでチンするだけの弁当は、店内調理の炊きたて・作りたての味にはかないません」

 とりわけA氏が愛してやまないのがフライドチキンだという。

「生の鶏肉から揚げるスパイスの効いたフライドチキンは5個前後入って約300円とコスパもよく、大手ファストフードチェーンを超える味です」

 出張族の50代男性会社員・B氏は「好物のカツ丼を全国各地で食べ歩いてきたが、セコマより安くて美味いカツ丼を出す店はない」と断言する。

「出張時に立ち寄ったセコマのカツ丼を食べて衝撃を受けました。価格も税込みで600円台と手ごろ。以来、北海道への出張時には海鮮丼やジンギスカンには目もくれず、セコマのカツ丼と北海道限定生ビールのサッポロクラシックで晩酌するのがささやかな楽しみです」

 また、「毎日のようにセコマに足を運んでしまう」と告白するのは、20代の中国人留学生男性C氏だ。

「北海道ならではのラインナップが豊富で、中国では入手困難な北海道産の乳製品や果物が手頃な価格で売られていて、まるで天国のようです。とくに“北海道メロンソフト”は、観光に来た友人たちに『こんな美味いものがいつでも食べられるのか』と羨ましがられます」

“地場食材の活用”と“ホットシェフ”

酒類卸時代の力を活かした輸入ワインのG7シリーズも人気

酒類卸時代の力を活かした輸入ワインのG7シリーズも人気

 歴代のセコマ経営陣に取材経験があり、40年近くコンビニ業界をみてきた前出・梅澤氏は、道内外の人から熱烈な支持を受けるセコマの強みについて、こう分析する。

「競合他社に勝るセコマ最大の武器は、道内各地の自社グループ会社などと生産・加工を手掛けた“北海道ブランド”のオリジナル商品です。地場食材をつかった商品は舌の肥えた道民も納得の品質で、道外出身者にはいっそう魅力的に映ります」

 また、セコマの代名詞的存在でもある本格的な店内調理システム“ホットシェフ”についても「セコマの先見の明を示す好例」と説く。

「ここ数年、業界3位のローソンや4位のミニストップは店内調理の強化を明確に打ち出しています。一方、セコマは1994年には業界初の本格的な店内調理事業“ホットシェフ”のシステムを構築し、工場製造の他社の弁当と大きな差別化を図ることに成功しました」(梅澤氏)

 その結果、ホットシェフは年間売上高150億円超の事業に成長している。

気になる東京進出は「容易でない」

ホットシェフに並ぶおにぎりや弁当

ホットシェフに並ぶおにぎりや弁当

 独自の地位を確立しファンからも愛されるセコマ。今後、道外に積極進出する可能性はあるのか。梅澤氏は「直営店中心のセコマ店舗が津軽海峡を渡って出店するのは容易ではない」と指摘する。

「現在、道外には茨城と埼玉に90店舗ほどありますが、さらに都内などにも店舗数を増やすとなると、製造・配送・販売が一体化したサプライチェーンの拠点を新たに整備する必要が出てくる可能性があり莫大なコストがかがります」

 一方、近年の動きをみると、“北海道ブランド”を売りにした商品の訴求力が高いセコマは、コンビニの積極進出で利益を上げるより、自社グループの商品を道外の食品スーパーなどで扱ってもらう“外販”で利益を確保する方向に舵を切っている。食品スーパーのライフやイオン九州、ウエルシア薬局などの一部店舗では、すでに牛乳やアイスといったセコマの人気商品の取り扱いが始まっている。

「道外に自前のコンビニ店舗を増やすよりも、北海道産ブランドを売る食品メーカーとして既存の小売事業者と共存共栄をはかることで、コストを最小化しつつ売上を最大化する戦略をとっているのです」

 人口減少が全国平均よりも約10年早く進んでいると言われる北海道。競合他社にも負けず、過疎化など地域の課題にも負けず、つねに厳しい環境の中に置かれたからこそ独自の地位を確立したコンビニは、北の大地で今日も人々の暮らしを支えている。

注目TOPIC

当サイトに記載されている内容はあくまでも投資の参考にしていただくためのものであり、実際の投資にあたっては読者ご自身の判断と責任において行って下さいますよう、お願い致します。 当サイトの掲載情報は細心の注意を払っておりますが、記載される全ての情報の正確性を保証するものではありません。万が一、トラブル等の損失が被っても損害等の保証は一切行っておりませんので、予めご了承下さい。