「ひょっとすると買収により伝統の味が変わるかもしれません」と田中さんは指摘する。
「買収後、短い期間で企業価値を上げ、数年後に手放して利ざやを稼ぐことがファンドのビジネスモデルの1つです。利益を出すために安い鶏肉を仕入れたり、店舗やメニューを増やしたりして“ケンタッキーらしさ”がなくなってしまうかもしれません。飼料供給から飼育や食肉加工処理、製品販売まで一括管理する“畜産インテグレーション”を開発した三菱商事が撤退することにもなれば、オリジナルチキンの製造に影響する怖れがあります」
実際、1970年代から2000年代にかけてM&Aや事業再編が盛んに行われた米国KFCでは、大株主や経営権が変わることで創業時の味が失われていったという。
「M&Aや事業再編後に登場した新しい大株主から短期的な業績改善を求められた米KFCは、原材料を仕入れ価格の安い鶏肉に変更し、調理方法を簡略化しました。するとケンタッキー本来の味が再現できなくなって客足が遠のき、次に現れた新たな株主がまた業績改善を求めてレシピを変える悪循環。いまや本国では創業時の味が失われたと囁かれ、『本物のケンタッキーを食べたい』とわざわざ日本に来るアメリカ人がいるほどです」
ファンドの「3つの施策」は日本KFCをどう変えるか
「積極的な出店戦略の実行」「メニューの多様化・チャネル拡大による店舗当たり売上の成長加速」「デジタルの強化に向けた戦略的投資」──。これらは新たな親会社となるカーライルが5月20日付のニュースリリースで、日本KFCの事業の成長に向けて、「優先的かつ迅速に推進する」と宣言した3つの施策である。
カーライルはどのように日本KFCを変えるのだろうか。田中さんは、「中国のケンタッキーが参考になる」と語る。
「ヤムチャイナが運営する中国KFCは中華料理店化もしくはマクドナルド化が進み、2023年第三四半期決算では『ビーフバーガー』の売り上げが元々のオリジナル・レシピのフライドチキンを上回りました。もはや中国ではかつてのケンタッキーの“世界観”が完全に崩れているようですが、カーライルによる買収後は日本もそうなるかもしれません」