2019年に立ち上がった「Cプロジェクト」
雪辱を果たすため、2019年11月に当時社長の廣田康人氏(現会長)が立ち上げたのが、社長直轄の「Cプロジェクト」である。同プロジェクト担当者の説明だ。
「『C』は頂上を意味し、創業者・鬼塚喜八郎氏の哲学“頂上作戦”に由来します。言葉通り、頂上=トップアスリートの声をしっかり聞き、彼ら彼女らが戦えるシューズを開発する試みで、上層部からは『開発コストは度外視してもいい』とも言われました」
研究開発、選手サポート、生産、マーケティングなど社内各部署から実力派スタッフを集め、部署横断型のチームを結成した。選手と対面してヒアリングを始めたが、道のりは平坦ではなかった。
アスリートからは「アシックスのシューズではもう戦えない」との声も聞こえてきたという。
「ひとり、またひとりとアシックスからアスリートが離れていきました。一方で私たちを信じる選手たちのためにできるだけ早く、戦えるシューズを提供しようと懸命に努力を重ねました」(同前)
選手からの聞き取りをもとにプロトタイプを作成し、その反応を受けてソールの厚み、つま先の形状などの改良を重ねた。この繰り返しで、通常は2~3種類のプロトタイプが10種類を超えた。浮かんできたのが「2つの方向性」だった。
「フィードバックを集めると、1歩あたりの歩幅が大きい『ストライド走法』のランナーは厚底を好み、足の回転の速さで勝負する『ピッチ走法』のランナーは厚底を好まないことがわかりました。そこで、それぞれの特性や趣向に合わせて、2種類のアイテムを提供することにしました」(同前)