「以前の歯科医院では一体、何をしていたのだろう」
虫歯治療の診療報酬は、元々安い。患者数が多かった時代は、それでも経営が成り立ったが、今は自費診療を取り入れないと歯科医院の存続すら危うくなっている。厚労省は歯周病の診療報酬を高く設定し、従来は保険診療で認めていなかった“予防措置”も可能にした。歯科医院の経営保護の面もあるだろう。だが、厚労省の方針が患者の利益になっていないケースがあると、米畑有理氏(歯の花クリニック・院長)は指摘する。
「他院で2か月に1回、定期検診とクリーニングに通っていた患者さんを診察すると、広い範囲で歯肉に炎症が残っていました。当院で歯周病の基本的な治療を1度すると炎症は大幅に減り、3か月に1回のメンテナンスで歯肉が健康な状態を保っています。以前の歯科医院では一体、何をしていたのだろうと思います。このようなケースが少なくありません」
また、耳を疑うようなケースもあるという。
「歯周病の診断には、歯周ポケットの深さを測る検査が必要ですが、『初めてこの検査を受けた』と言う患者さんもいました。ある歯科衛生士に聞くと、検査せずに(ポケットの深さの)数字を記入させている歯科医院があるそうです」(米畑氏)
米畑氏は大阪大学大学院で博士号を取得後、スウェーデンの歯科医療制度などを学んだ。日本の保険診療に疑問を抱き、自費専門の予防歯科医院を経営している。
「日本の保険診療は手軽に治療を受けられますが、必要な治療であったか、実際に治ったか評価する仕組みがありません。治療をすればするほど儲かる『出来高制』は悪用されやすい。歯周病の診療報酬は虫歯と比べて高いので、長期的に通院させたほうが経営的には潤うのです」(同前)
【プロフィール】
岩澤倫彦(いわさわ・みちひこ)/1966年、札幌市生まれ。ジャーナリスト。報道番組ディレクターとして救急医療、脳死臓器移植などのテーマに携わり、「血液製剤のC型肝炎ウィルス混入」スクープで、新聞協会賞、米・ピーボディ賞。著書に『やってはいけない歯科治療』(小学館新書)などがある。最新著書は『がん「エセ医療」の罠』(文春新書)。
※週刊ポスト2024年8月9日号