歯科医療の現場において近年、杜撰な治療が行う歯科医が存在するという。『やってはいけない歯科治療』の著者で、“歯科業界に最も嫌われるジャーナリスト”の異名を持つ岩澤倫彦氏(ジャーナリスト)が、歯周病治療の現状についてレポートする。
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「食道がんの発生要因に、歯周病の原因菌が関連している」──東京医科歯科大学の研究グループが2020年に医学誌『Cancer』に公表した発見は、世界に衝撃を与えた。歯周病は単に口の中だけにとどまらず、呼吸器や心臓、糖尿病などの全身疾患や新型コロナの重症化にも関係していることが、最新の研究で判明している。歯周病治療の第一人者として、若手歯科医を指導している弘岡秀明氏(弘岡歯科医院・院長)は、次のように解説する。
「歯周病は細菌のかたまりのバイオフィルム(プラーク)によって起きる、炎症を伴うある種の感染症です。痛みなどの自覚症状が少ないので、気づかないうちに進行させてしまう人が多い。歯周病は大きく2つに分類されます。1つ目は炎症が歯肉だけに留まる軽度の状態の『歯肉炎』。適切な治療で完治可能です。
2つ目は炎症が進行して、歯を支える歯槽骨など歯周組織の破壊が始まる『歯周炎』です。がんになぞらえて病状とリスクで、4段階のステージに分類されています。歯周炎の完治は難しく、進行を止めて健康を回復することが治療の目標です」
歯周炎のステージが進行すると、歯周ポケットが深くなり、出血や膿(うみ)、口臭、歯が揺れるなどの症状が顕著になる。さらに悪化すると、歯の根を支えている骨が溶けて、最終ステージは抜歯になる。
全国の歯科医院を対象にした抜歯原因の調査では、1位が歯周病(約37%)で、虫歯(同2位、約29%)よりも多かった(8020推進財団)。手強い歯周病だが、前述の通り歯科医が適切な治療をしない“罠”もある。患者が見抜くためのポイントを見てみよう。