【4】根管治療の成功率は、5割未満
歯根の先に炎症が起きた状態を、根尖病巣と呼ぶ。進行すると、周辺の骨が溶けて抜歯となることもある。ただし、適切な根管治療を行なうと、溶けた部分の骨が再生して、抜歯を回避することも可能だ。歯科医を対象に根管治療を指導している松田敦至氏(坂詰歯科医院・院長)は、こう述べる。
「歯根の中で複雑に枝分かれしている根管がありますが、これは治療の難度が非常に高い。また、過去に根管治療を受けていたケースなど、やり直しの『再根管治療』も同様に難しいですね」
松田氏は、根管治療の成功率を上げるためには、マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)と専門技術が必須という。ただし、準備には膨大な投資が必要だ。
日本大学松戸歯学部の松島潔教授は臨床経験や政府の総合統計から、根管治療における成功率は50%未満と考察している。実に2人に1人が治らないという裏事情は、知られていない。
成功率が低い一つの要因として、松島教授は診療報酬の安さにあると指摘している。そのため、根管治療は自費で行なう歯科医が増えている。歯を残す治療にコストがかかるケースがあることも、知っておくべきだろう。
【プロフィール】
岩澤倫彦(いわさわ・みちひこ)/1966年、札幌市生まれ。ジャーナリスト。報道番組ディレクターとして救急医療、脳死臓器移植などのテーマに携わり、「血液製剤のC型肝炎ウィルス混入」スクープで、新聞協会賞、米・ピーボディ賞。著書に『やってはいけない歯科治療』(小学館新書)などがある。最新著書は『がん「エセ医療」の罠』(文春新書)。
※週刊ポスト2024年8月9日号