日経平均の史上最高値更新は、そんな“脆弱な要因”に支えられただけだったというのだ。
「需給ギャップは金額ベースで10兆円弱あり、その需要不足を埋めてきた格好なのが10兆円近くまで高まってきた外国人観光客によるインバウンド消費です。円安を追い風にインバウンドは宿泊、飲食、交通業界などの拡大をもたらし、それが日本経済全体に及んでいく構図が期待されました。
しかし、そんな期待感を大きく剥落させたのが、ほかでもない日銀の利上げです。デフレ脱却によって企業の業績が向上し、賃上げによって個人消費も回復が望めるという千載一遇のチャンスを自ら遠のかせてしまったに等しい。日銀の利上げをきっかけとした株価の大暴落によって、個人消費は冷え込み、企業の設備投資も後退させてしまうような事態まで想定される。消費者のデフレマインドを解きほぐすどころか、むしろ凝り固めてしまった。このタイミングでの利上げは明らかに間違いで、早すぎたといえます」
個人消費マインドの高まりが望めなくなった
市場のデフレ脱却への期待が株価を押し上げたが、その期待を一気に萎ませたのが日銀の利上げだったというのだ。日銀の植田和男・総裁はかねてより「賃金の上昇を伴う2%の物価安定目標」を掲げていたが、7月の利上げ前に発表された実質賃金(今年5月分)は26か月連続のマイナスで、賃上げが物価上昇に追いつかない状況が続いていた。それでも利上げに踏み切ったのはなぜか。
「財務省や政治家を含め岸田政権が過度な円安解消のために日銀に利上げを迫るムードが高まり、日経新聞を中心に大手マスコミも利上げが当然のような“先打ち”をして外堀を固めていったことが大きい。7月の金融政策決定会合でも利上げは全会一致ではなく、反対に回った委員も2人いたが、日銀プロパーの考え方でいけば“利上げが勝ちで、利下げは負け”で、それらを抑えきれなかった面もある。そのように外堀が埋められるなか、植田総裁は“利上げさせられた”と見た方がよいでしょう」