認知症の高齢者を狙った詐欺事件が頻発している。6月、警視庁は、認知症の高齢女性に中古アパートの部屋を高額で売りつける準詐欺の容疑で、都内の不動産業者の従業員4人を逮捕した(7月にも同様の容疑で再逮捕)。他にも容疑は50件あまりに及び、数百万円で購入した古い中古物件を数倍から10倍の価格で売りつける手口で、1年で7億円を売り上げていたという。
昨年10月には、認知症高齢者を狙った特殊詐欺のグループが大阪府警に摘発されている。闇バイトで集めた50人規模のグループで、仲間内の通信アプリのやり取りでは「認知症の高齢者は宝物」「ぼけたばばあを探すゲームだ」といった言葉が記録されていたと報じられている。
内閣府の「令和6年版高齢社会白書」によると、令和5年中の特殊詐欺の認知件数は約1万9000件で、被害者の8割弱が65歳以上としている。被害者がみな認知症というわけではないが、高齢に加え認知症ともなれば、「なりすまし」や「悪徳商法」などの詐欺に遭い、金銭を騙し取られるリスクが高まるのは言うまでもない。
こうした詐欺に対しては、これまで、迷惑電話対策機能のある留守番電話やインターホンの活用、固定電話の撤去といった対策の他、家族間でなりすまし防止の合い言葉を決めるとか、コンビニ店員や銀行員がATMを操作している高齢者に気を配るといった社会的な見守りまで含めて、さまざまな対策が取られてきた。が、それらの対策により離れて暮らす老親を四六時中見守り続けることは不可能で、決め手に欠けるというのが現状である。
そんななか、高齢者を狙った詐欺からの防衛策のひとつとして「家族信託」が注目されている。
家族信託とは、本人(高齢の親など)が健康なうちに、信頼のおける家族や知人と信託契約を結び、金融資産や不動産などを本人にかわって管理する仕組みだ。信託契約はこれまで信託銀行など金融機関だけに認められていたが、2006年の信託法改正により、幅広く利用が可能になった。親が認知症になった場合の相続トラブルを避ける目的などで活用されるケースが多いが、これがどう詐欺対策につながるのか。