大前研一「ビジネス新大陸」の歩き方

もはや「右」も「左」もなくなった 英米仏の選挙で顕在化する“民衆の自分ファースト化”

 スターマー新首相は就任後初の演説で自身を「安定と穏健主義を主張する政治家」と評した。14年の野党暮らしを経験した労働党は頑迷固陋な左派の“組合党”ではなく、現実的で柔軟な政党になったわけで、スターマー新首相がイギリスが抱える問題の原因を分析してブレグジットの見直しまで踏み込む方針に転じれば、さらに国民の支持を得ることができるだろう。

 次はフランス。6月のEU議会選挙でエマニュエル・マクロン大統領が率いる中道の与党連合は、右翼政党「国民連合(RN)」にダブルスコアで歴史的大敗を喫した。そこでマクロン大統領は下院の解散・総選挙に踏み切るという乾坤一擲の賭けに出た。

 しかし、第1回投票で惨敗し、第2回投票では、急進左派「不服従のフランス(LFI)」や社会党などで構成する左派連合「新人民戦線」と多くの選挙区で候補を一本化した。結果、左派連合が最大勢力となったが、LFIはマクロン大統領が進める年金受給年齢引き上げの撤回を求めるなど両者は全く相容れない関係だ。結局、どのグループも過半数に達しなかったため、新首相の選出や組閣の連立交渉が難航している。

 しかし、もはやフランスも右翼と左翼が対立するという単純な構図ではない。その象徴はRNのジョルダン・バルデラ党首である。

 演説はうまいが、内容に全く主義主張がない鵺のような政治家で、極右のネガティブなイメージとかけ離れている。生成AI(人工知能)に「いま選挙に勝てる政治リーダーは?」と質問したら答えはこうなる、と思うような人物だ。

アメリカの分断は二極化ではない

 これらの選挙結果に共通するのは、民衆の“自分ファースト”化だ。もはやどこの国でも人々は「右」とか「左」とかのイデオロギーを超えて、物価高や貧困、失業といった身近な問題から自分たちの生活を守ってくれるのであれば支持する、という「自分最優先」「自己中心」の態度を取っている。イデオロギーで葛藤する時代は完全に終わったとみてよいだろう。

 そして、その先駆けがアメリカである。アメリカは資本家側で保守の共和党支持者と、労働組合側でリベラルの民主党支持者に分断されて二極化していると言われるが、今は違う。国民の多くは、保守かリベラルかに関係なく、“自分ファースト”で投票する候補を選択しているのだ。

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