もちろんその道のりは、喜びだけではない。
「苦労したことも数え切れないほど。いちばんは息子中心の生活に振り回されたことですね。後悔はしていませんが、自分の時間もお金もすべて野球につぎ込みました」(Bさん)
Aさんも、喜びとともに一抹の後悔があると話す。
「息子の上に姉がいますが、私が息子にかかりきりだったのが不満のようで、なかなかの反抗期でした。思春期の娘に寄り添えなかったのは、いま思い出してもつらく申し訳なかったです」
「チーム全員がかわいい息子たちでした」
野球少年の母の心情を誰よりも知るのが、『甲子園、連れていきます! 横浜高校野球部 食堂物語』の著者の渡辺元美さんだ。神奈川県の名門・横浜高校野球部を長年率いた渡辺元智氏の次女である彼女は、同部の寮母を20年間務め、多くの高校球児、その家族らと接した。渡辺さんの息子もまた、横浜高校時代に甲子園に出場した球児で、現在は東北楽天ゴールデンイーグルスに所属している。
「野球少年の母は、1日24時間では足りません」
渡辺さんは寮母として、母としての20年間を苦笑しながらそう語る。
「どの家庭も野球をやっている息子ファーストの生活です。試合の日は、朝4時に集合することもしばしばで、自分のスケジュールを組むのが大変。弟や妹が練習に連れてこられて、グラウンド脇で遊ぶこともしょっちゅうです。
うちの父も本当に野球ばかりの“球児ファースト”で、全然家に帰ってこなかった。一緒に遊んでもらえないし、家には常に選手が生活しているし、子供の頃は野球なんて嫌いだったんです」(渡辺さん・以下同)