今年の夏の第106回全国高等学校野球選手権大会は、甲子園球場での開催が始まってちょうど100回目。これまでグラウンド上で数多の名場面が繰り広げられたが、野球少年の母たちが声を張り上げるアルプス席にこそドラマがある。高校球児を子供に持つ母たちの苦労に迫る──。【母たちの甲子園・第2回。第1回から読む】
保護者も先輩には従わなければいけない“暗黙のルール”
野球少年が高校球児へと成長していくなかで、立ちはだかる壁は時間のやりくりやお金の工面だけではない。
高校野球の内幕を描いた話題の小説『アルプス席の母』の著者・早見和真さんは、神奈川県の強豪・桐蔭学園野球部出身だ。小説を書くために取材した高校球児の母たちからは多くのリアルな話を聞いたと話す。
「ぼく自身は“桐蔭の野球部はこうあるべき”という世間の目に反発して生きてきたけれど、母親たちに取材すると高校時代のぼくの目には映らなかった面が見えてきました。親同士や親と監督との関係、金銭面のやり取りまで、とても小説に書けないような話がポロポロと出てきたんです」
早見さんは取材を基に、物語の中で一人息子を野球部に入部させたシングルマザーが部のしきたりや人間関係に戸惑う姿を描いた。
《監督への直接の声がけ禁止》
《後輩の親が座るのは、先輩の親が全員座るのを見届けてから》
そんな驚くようなルールは、実際に存在する。自身も父母会の人間関係に苦労したと明かすのは、15年近く前に息子が甲子園に出場した茨城県のCさん(58才)。
「子供同様、保護者も先輩には従わなければいけないとの暗黙のルールがありました。野球部の1年先輩に息子の幼なじみがいて、その子のお母さんとはママ友だと思っていたのに、父母会で急に尊大な態度を取られ、上から命令されてショックでした。
保護者は雑用が多いのですが、指示を待っていると上級生の母親から『言われる前にやって!』と怒られ、自分の判断で動くと『勝手なことをしないで!』とたしなめられた。先輩保護者のさじ加減がすべてで、ストレスがたまりました」(Cさん)