今年の夏の第106回全国高等学校野球選手権大会は、甲子園球場での開催が始まってちょうど100回目。グラウンドで繰り広げられる球児たちのドラマとは別に、球児をサポートする母たちにも、汗と涙のドラマがあるのだ。【母たちの甲子園・第3回。第1回から読む】
高校野球の内幕を描いた話題の小説『アルプス席の母』(早見和真・著)では、一人息子の航太郎が地元を離れて大阪の高校へ進学する。野球少年たちが、「甲子園を目指すかどうか」を決断するとき、「どの高校を選ぶか」は人生を大きく左右する。3人の息子全員が高校球児だった生活を著書『汗と涙と茶色弁当』に記した石川典子さんの息子たちはシニアチームの監督と相談し、その候補の中で練習の見学や説明を受けて進学先を決めたという。
「長男は私立の強豪校に進み、次男は人工芝の室内練習場といった設備が整った別の私立の強豪校を選びました。三男も私立を希望するかと思いましたが、『ぼくは公立で私立の強豪を倒したい』と言って設備が古く、道具がボロボロの公立校を選びました。三者三様でしたね」(石川さん)
神奈川県の名門・横浜高校野球部を長年率いた渡辺元智氏の次女で、『甲子園、連れていきます! 横浜高校野球部 食堂物語』の著者である渡辺元美さんは、同部の寮母を20年間務めた。そして、渡辺さんの息子も横浜高校時代に甲子園に出場し、現在は東北楽天ゴールデンイーグルスに所属している。息子が高校生になるときに、すでに横浜高校の寮母をしていた渡辺さんの選択肢はひとつだった。
「私は離婚して一人親だったので、寮母をしながら息子をサポートできる環境で野球をしてもらうしかなかった。結果的に、本人が生まれたときから野球部寮で生活していた横浜高校を選んだ。
あとから知ったことですが、高校時代は“監督の孫”との風当たりが強かったようで、歯を食いしばってレギュラーを掴んだ経験がいまのプロ生活につながっているのでしょう。完全な結果論ではありますが、横浜高校を選んで正解でした」(渡辺さん)