「住宅弱者」の高齢者をどうしていくか
政府は対策として、老朽マンションの再生を推進すべく区分所有法を改正し、建て替えや取り壊しに必要な所有者の同意割合の緩和を図るが、高齢居住者が多いところではこうした手法の効果は限定的だとみられる。
一方、老朽化したマンションを建て直すことになればなったで、別の問題も起きる。大規模な“高齢住宅難民”を生み出すきっかけとなりかねない。内閣府の「高齢社会対策総合調査」(2023年度)によれば、高齢者の居住形態は民間の賃貸マンションやアパートが5.9%、公営などの賃貸住宅が4.5%で、約1割が賃貸の共同住宅に住んでいる。
建て替え期間中は分譲マンションの所有者であっても、いったんは別の住宅に移り住まなければならなくなる。マンションを借りて住んでいる人の中には、建て替え後に家賃が大きく上昇して借り続けられなくなる人も出てこよう。
しかしながら、賃貸の場合には高齢者の入居を拒否する物件が少なくなく、高齢者の住宅探しは難航が予想される。国交省によれば、賃貸人(大家)の66%が拒否感を抱いている。他の入居者とのトラブルや、家賃の滞納、居室内で孤独死し“事故物件”となることなどへの不安があるためだ。
「高齢社会対策総合調査」(2023年度)は65歳以降に入居を断られた経験のある人について調べているが、離婚して単身となっている人や世帯収入が120万円未満の人の割合が高い。高齢であるだけでなく、万一のときの身元引受人がいなかったり、家賃の連帯保証人が見つからなかったりということなどが理由だ。
老朽化したマンションはいずれ建て替えなければならない。「厳しい選択」に頭を抱え先送りしているうちに、そこに住む人々の暮らしぶりや家族構成は変化を続けていくということである。今後は1人暮らしだけでなく、高齢者夫婦のみという世帯も増えていく。
人口減少社会においては、空き家の増大やマンションの老朽化といったひとつひとつの課題への対応だけでなく、「住宅弱者」である高齢者の住まいをどうしていくのかという視点を持って根本的な対策を考えなければならない。
【プロフィール】
河合雅司(かわい・まさし)/1963年、名古屋市生まれの作家・ジャーナリスト。人口減少対策総合研究所理事長、高知大学客員教授、大正大学客員教授、産経新聞社客員論説委員のほか、厚生労働省や人事院など政府の有識者会議委員も務める。中央大学卒業。ベストセラー『未来の年表』シリーズ(講談社現代新書)など著書多数。最新刊『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』(小学館新書)では、「今後100年で日本人人口が8割減少する」という“不都合な現実”を指摘した上で、人口減少を前提とした社会への作り替えを提言している。