大前研一「ビジネス新大陸」の歩き方

米大統領選のカギとなる“副大統領候補選” ハリス氏&ウォルズ氏が「ダブルヘイター」を取り込み、初の女性大統領誕生か

勝利はどちらの陣営に?(イラスト/井川泰年)

勝利はどちらの陣営に?(イラスト/井川泰年)

 いよいよ11月に米大統領選が実施される。共和党の候補トランプ氏と民主党の候補ハリス氏の支持率が拮抗する中、経営コンサルタントの大前研一氏は「カギを握るのは副大統領候補」と指摘。米大統領選の行方を大前氏が分析する。

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 トランプ氏が副大統領候補に指名したJ・D・バンス上院議員(オハイオ州)は中西部「ラストベルト(錆びついた工業地帯)」のプアホワイト(白人の低所得者層)出身で、その悲惨な生い立ちと成功までの道のりを描いた自叙伝『ヒルビリー・エレジー』がベストセラーになった。

 同書によると、母親が薬物中毒で、幼少期は祖父母に育てられ、失業・貧困・暴力が日常の風景だったという。海兵隊での軍務後、オハイオ州立大学とイェール大学ロースクール(法科大学院)を卒業してシリコンバレーのベンチャーキャピタルの社長などを務め、2022年の中間選挙で上院議員に当選した。ロースクール在学中に知り合ったインド系アメリカ人の妻との間に3人の子供がいる。

 プアホワイトのどん底から這い上がっていった経歴は、アメリカンドリームの体現者として幅広い層にアピールするはずだった。年齢がトランプ氏のほぼ半分の40歳と若いこともあって、当初、トランプ支持者はバンス氏とのチケット(組み合わせ)を歓迎し、共和党大会も盛り上がった。

 しかし現在は、バンス氏指名が失敗だったという見方が出てきている。

 もともとバンス氏はトランプ氏を支持しない「ネバー・トランパー」だと公言し、トランプ氏を「有害で、白人労働者を暗い場所に導く」などと批判していたが、上院議員選挙で当選するためにトランプ支持に“転向”した。その背景には、トランプ氏の長男ジュニア氏との親密な関係があるとされ、副大統領候補指名にもジュニア氏の後押しがあったとみられている。

 要するに、バンス氏は時流に合わせて主義主張を変える「風見鶏」であり、その一貫性のなさが批判を浴びているのだ。

 しかも、バンス氏は以前、出産経験がない女性を「チャイルドレス・キャット・レディ(子供がいない猫好きの変なおばさん)」と中傷し、その1人としてハリス副大統領の名前を挙げた。この差別発言がネット上で広まり、女性有権者の反発を招いて選挙戦の足を引っ張る恐れがある。いまやバンス氏は共和党の“お荷物”とみなされ、トランプ氏はバンス氏を選んだことを後悔しているとも伝えられる。

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