どんな世界でも、隣の芝生は青いもの。こと「給料」については、同業他社がいくらなのか気になるところだろう。上場企業は年間1億円以上の報酬を得た役員がいれば、その氏名と金額を個別に開示しなければいけない。東京商工リサーチによると、6月25日までに2024年3月期の有価証券報告書を提出した上場企業のなかで、役員報酬1億円以上の開示があったのは163社だったという。会社勤めで「億超え」というだけで特別だが、同業種間ではどんな「差」があるのか──。
まずは「5大総合商社」をみていく。役員報酬1億円以上が最も多いのは伊藤忠商事の14人。以下、三井物産が9人、住友商事が7人、三菱商事が5人、丸紅が4人だった。伊藤忠は2023年度の売上高で三菱、三井に次ぐ業界3位だが、こと“億超えプレイヤー”の多さでは2年連続トップと業界内で頭一つ抜けた存在だ。そんな伊藤忠を牽引する岡藤正広会長の役員報酬は10億300万円と堂々の10億円超。経済ジャーナリストの森岡英樹氏が語る。
「岡藤さんは、伊藤忠商事を財閥系商社と戦える業界トップ水準に飛躍させた“ドン”のような存在です。伊藤忠の躍進が始まったのは、2010年4月に岡藤さんが社長に就いてから。海外勤務の経験がなく、繊維畑一筋だった岡藤さんのトップ就任は業界でも話題を集めました。社員に宛てた就任時のメッセージでは、『かけふ』を経営の標語に掲げていた。『かせぐ、けずる、ふせぐ』の頭文字をとったもので、『ふせぐ』では抗がん剤を例に挙げ、抗がん剤はいい細胞も一緒に殺してしまうが、うちの会社はそうではなく、悪い細胞を見つけてピンポイントで取り除くのだと掲げた。これが後に管理部門の指針になったといいます」
三菱商事は「役員と社員の差」が小さい
売上高では業界トップの三菱商事・中西勝也社長の役員報酬は7億6800万円。決して安くはないが岡藤氏とは約2億6000万円の開きがある。『経済界』編集長の関慎夫氏が言う。
「三菱商事の中西さんの額は少し気になりますね。キーエンスなどを除けば最も平均年収が高い会社の一つですが、トップの報酬が同業他社に後れを取っているというのは違和感がある。日本はいまだに社長と一般社員の格差が欧米に比べて小さいことを証明する事例と言えそうです。ウォーレン・バフェット氏も認めた日本経済の牽引役である総合商社のトップとしては少々夢がない結果と言えますし、1億円超の役員数でも伊藤忠の3分の1程度です。ただ見方を変えれば“社員に還元している”とも言えるので、それが日本型経営の良さと言えるのかもしれません」