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【日本の医師不足は本当か?】医学部の定員増が社会にとってマイナスとなる本末転倒

医学部入試の劣化、医療費増などの弊害も

 弊害の1つが、医学部入試の劣化だ。出生数の減少ペースが速いので、18歳人口に占める医学部進学者は1970年が約436人に1人、2024年は約116人に1人だったが、2050年には約85人に1人となる。18歳人口の全員が大学に進学するわけではないので、分母を大学入試の受験生として計算し直せば、割合はさらに大きくなる。

 このままでは求める学力水準の受験生を集めきれない大学が出てこよう。医学部に合格できたとしても、国家試験に合格できなければ意味がない。

 医師数が増えるにつれて医療費が伸びることも弊害だ。

 医師数が過剰になるということは、単純化すれば医師1人あたりの医業収入が減るということである。医療機関にすれば収入の落ち込みを少しでもカバーするために患者1人あたりの医療費を高くしようとの意識が働きやすくなる。患者よりも専門知識を多く有する情報の非対称性を利用して、必要性の低い治療や検査が行われやすくなるとの研究結果もある。医師自身が医療需要を喚起する供給者誘発需要だ。

 真に医師不足を解決しようと考えるならば、医師の養成数増といった安易な手段に流れるのではなく、問題の本質に正面から取り組まなければならない。

『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』(小学館新書)

『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』(小学館新書)

【プロフィール】
河合雅司(かわい・まさし)/1963年、名古屋市生まれの作家・ジャーナリスト。人口減少対策総合研究所理事長、高知大学客員教授、大正大学客員教授、産経新聞社客員論説委員のほか、厚生労働省や人事院など政府の有識者会議委員も務める。中央大学卒業。ベストセラー『未来の年表』シリーズ(講談社現代新書)など著書多数。最新刊『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』(小学館新書)では、最新の統計データに独自の分析を加えた未来図を示し、これからの日本が人口減少を逆手に取って「縮んで勝つ」ための方策を提言している。

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