「偏在」解消のための政策にも限界
医師を「地域住民」の1人としてとらえるならば、家族を含めた生活環境を考えるのは当たり前である。医師不足が起きる地域において不足しているのは医療機関だけではない。学校も介護施設も維持が難しくなっている。子どもの教育や親の介護など家族の暮らしの先々まで考慮し、生活が便利な大都市や県庁所在地などに勤務地を求めるのは医師以外の人と同じであろう。地方の「患者不足」が進むほど、医師や病院の大都市集中の加速が想定される。これらの事情が相まって、実質的な無医地区はさらに広がっていく。
こうした現実に対し、政府や自治体はオンライン診療を普及させることでカバーしようとしている。だが、触診や手術は原則として対面でなければできず、部分的な解決にしかならない。
医学部入試の「地域枠」の拡充や過疎地域の医療機関の診療報酬を手厚くすることも検討されているが、これも「現状維持」を前提とした考え方だ。
偏在解消は、ある程度の強制力をもった政策を講じなければ進まないだろう。だが、医師を強制的に派遣するとなれば反発は大きい。
しかも、仮に医師を公務員化して医師不足地域の勤務を一定期間義務付けたとしても、その地域の患者数の減少が止まるわけではない。過疎地に医療機関を維持させるだけでも多大な費用が必要となる。「患者不足」で十分な収入を見込めないとなれば、いつまでも続く話ではない。
それよりも、地域ごとに人口集約を図るほうが合理的だ。人口減少社会で問われているのは、医療を含む公的なサービスをどこまで提供すればよいかという線引きである。そろそろ社会全体で「最終ライン」を決めなければならない。
【プロフィール】
河合雅司(かわい・まさし)/1963年、名古屋市生まれの作家・ジャーナリスト。人口減少対策総合研究所理事長、高知大学客員教授、大正大学客員教授、産経新聞社客員論説委員のほか、厚生労働省や人事院など政府の有識者会議委員も務める。中央大学卒業。ベストセラー『未来の年表』シリーズ(講談社現代新書)など著書多数。最新刊『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』(小学館新書)では、「今後100年で日本人人口が8割減少する」という“不都合な現実”を指摘した上で、人口減少を前提とした社会への作り替えを提言している。